第11章 待ち侘びた日々
靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた私たちは"手ぐらい繋がずに歩けねぇのか"と呆れる宇髄様を先頭に(極めてその通りだと思う)、行事がある際に使用されると言う特別教室へと向かった。そこに向かう間に目についた掲示物も、自分が通っていた公立学校とは違いとても個性的なものばかりで、生徒たちのとても楽しそうな姿が目に浮かぶようだった。
「煉獄先生が嫁と手を繋いで校内を歩いてるなんて、万が一女子生徒に見られでもしたら暴動が起きかねねぇな!」
宇髄様が何の気なしに言った言葉に、私はピクリと反応する。
「去年バレンタインの時、煉獄がいくつチョコ貰ったか知ってるか?32個だぜ?年々増えてくから面白ぇぜ。通勤途中にも押し付けられたって話だぜ?ま、俺様はその倍以上に貰っているがな!」
「宇髄!そんな話をする必要はないだろう!」
…32個?通勤途中にも押し付けられた?
思わず足がピタリと止まる。杏寿郎さんも、立ち止まった私に倣い、足を止める。
思い出すのは免許の名義変更の時、そして銀行で名前を呼ばれた時に浴びたあの視線。あの視線を寄越してきた持ち主の中に、もしかしたら杏寿郎さんにチョコを寄越した人もいたのだろうか。
なんか…ムカつく。私だってずっとそうしたかった。
バレンタインが来る度、杏寿郎さんにチョコをあげることが出来たらなと思っていた。
「そうむくれるんじゃない」
いつの間にか顔に出ていたようで、眉を下げ困り顔の杏寿郎さんが私の顔を覗き込んでいた。
「…むくれていません」
「嘘をつく必要はない」
「嘘じゃありません。別に杏寿郎さんが誰からチョコを貰おうと、好意を向けられようと…私には関係ありません」
「むっ!」
プイッと杏寿郎さんから視線を逸らし、無意味に床を見る。我ながら可愛くない言い方だとは思った。けれども、私が長年そうしたいと思っていたことを、赤の他人が当然のようにやっていたと思うと…やはり良い気はしない。
「なんだァ?こんなところで夫婦喧嘩してんじゃねぇよ。通れねぇだろうがァ」
その声にむくれたままの顔で振り向くと、
「あらあら、そんな風にむくれるナオちゃんもとっても可愛いわね」
「煉獄さんったら、またナオさんを怒らせるようなことをしたんですか?」
そこにいたのは不死川様とカナエさん、そしてしのぶさんだ。
