第2章 青から赤へ
「ありがとうございます。‥いただきます」
お店で食べる以外で誰かの作ってくれた物を食べるのはいつぶりだろう。ハナエさんが居なくなってから誰かと親しい間柄になる事が怖くなった。私が側にに居たいと思う相手はみんな居なくなってしまうから。だから育手の元を離れて以降はなるべく一つの場所に留まらず、表面的な付き合いしかしてこなかった。
「‥凄く‥美味しいです‥」
千寿郎さんが握ってくれたおにぎりは、今までで食べたおにぎりの中で1番優しい味がした。
「ところで柏木さん、お荷物が少ないようですが此方にはいつ頃から住われる予定ですか?」
‥っ!!!
吹き出しそうになったお茶を何とか飲み込む。
え?ここに住われる?なんの話?どういう事?
「‥兄上から柏木さんが稽古のために住み込むことになると‥そう聞いていたのですが」
違ったのでしょうか‥?と不安げに私を見る千寿郎さん。
思わずグリン!っと音が聞こえそうな程の勢いで煉獄さんを見る。
「言っていなかっただろうか?」ニコッと笑う煉獄さん。
「‥っ聞いてないですー!!!!」
その笑顔にまた心臓が大きく波打った気がした。
「そうか!それはすまなかった!」
わはは、と明後日の方向を見ながら全く悪いと思っていなさそうな煉獄さん。あ、これは絶対に確信犯だ。嘘が嫌いそうなんて全然違うじゃないか。
「‥煉獄さんって思ったよりズルい人なんですね」
思わず嫌味っぽくなる。
「ははは!頭脳的と言ってもらいたいものだ!」
ほんの少し弟子になると言った言葉を取り消したくなった。
「それにだ!お互いに任務もあるだろう。毎度空き時間を確認し、それを合わせると言うのも面倒だ。なにより時間の無駄というものだ!ならばここに住むのが1番お互いに良いだろう!幸い部屋はたくさん余っている!」
さも名案と言いた気な煉獄さんに少し頭痛がしてくる。
私、これからどうなるの?
これから始まるであろう今までと全く違う生活に、少しの‥いや大きな不安と、期待を抱き私は雲ひとつない空を見上げた。