第11章 待ち侘びた日々
まさかこの白無垢を着て杏寿郎さんと式をあげられる日が来るなんて、想像すらしてこなかった。涙よりも、ただただお館様への感謝の気持ちで胸の奥が熱くなる。
「衣装は…これで決まり…ですね」
「うむ!それ以外考えられない!」
「杏寿郎さん。私、お礼のお手紙を書きたいので、お館様に渡してはもらえませんか?」
「もちろんだ。書き終わり次第すぐに渡そう。俺も明日、お館様に感謝の気持ちを伝える」
杏寿郎さんと私はしばらくその衣装を黙って眺めていた。しんみりと、けれども暖かい雰囲気が居間を包みこむ。
その穏やかな沈黙を破ったのは瑠火様だ。
「私の知人に古くから呉服屋を営んでいる方がいます。状態とサイズを見てもらう必要があるかと思うので、一度一緒に行きましょう」
「確かに母上の言う通りだ。俺も、今でも鍛えているとは言え、昔に比べてしまうと大した量とは言えない。体型は若干違っているやもしれない」
瑠火様と杏寿郎さんのその会話に、私はギクリとする。
「…私に至っては…全くと言っていいほど鍛えていません…!どうしよう!どうしましょう!私、この白無垢が着れなかったら…っ!杏寿郎さん!瑠火様!」
半泣きの私に杏寿郎さんは
「心配いらない!そのプニプニの二の腕も腹も、俺にとってはとても魅力的だ!」
と言った。私の頬はカッと急激に熱くなる。
「…っ何を言ってくれてるんですか!みんなの前でっ!どうして杏寿郎さんはたまにそうやって訳の分からない事を平気で言うんです!?」
「訳の分からないとは心外だな!俺はただ君の全てを愛しているだけだ!」
「もう!いいから杏寿郎さんは黙ってください!」
「よもやっ!」
「兄上とナオさんは昔から変わりませんね」
「うるさい奴らだ。さっさと家を探して出て行って欲しいものだ」
「あら、それで1番寂しい思いをするのは恐らく貴方ですよ」
真っ赤な顔でプリプリと怒る私。それをものともせず場違いにも愛を叫ぶ杏寿郎さん。そんな私達を呆れた顔で見る槇寿郎様。更にそれを見て"仕方のない人たち"と言わんばかりの笑顔を浮かべる瑠火様。更に少し離れた位置でとても幸せそうな笑みを浮かべている千寿郎さん。
煉獄家の騒がしい夜はまだまだ終わりそうにない。
瑠火様に"白無垢だから多少の体型の変化は問題ない"と言われるのはもう少し先の話。
