第11章 待ち侘びた日々
「お館様が…?」
確かに、私はこの2つをお館様にお渡しした。手の届くところに置いておくのが辛くて、それでも捨てると言う選択は出来なくて、どこか必要としてくれる所に寄付して欲しいと、杏寿郎さんと私の代わり着てくれる誰かにあげて欲しいと、そうお館様にお願いしたはず。お館様も"わかったよ"とそう言っていたはずなのに。
「…お前の遺品を整理した際、この2つが見当たらなかった事が気にはなっていた。お館様に預けてあったのか?」
杏寿郎さんは槇寿郎様の言った"遺品"と言う言葉が耳についたのか、隣にいた私の手をパッと取り握った。私が杏寿郎さんを安心させる様に
「大丈夫です。私も、杏寿郎さんを置いていなくなったりしません」
と微笑みかけると、眉を下げながら
「…うむ」
と普段より力無く言った。
「私はこれをお館様に、どこかに寄付するか、必要とする誰かに差し上げて欲しいと言ってお渡ししました。お館様も私がそう言うならと言ってくれていたはずなのですが…。ずっと、持ってていてくれたのでしょうね…」
紋付袴も白無垢も、少しも痛んだ様子はなく、大切に保管されていたのだと理解ができた。きっとあの時、側に置いておくのが辛いと思いながらも、心の奥底では手放したくないと思っていた私の気持ちが、お館様にはお見通しだったのだろう。
「兄上!そこの隙間に封筒の様なものが入っております!」
「む!確かに……手紙の様だ」
杏寿郎さんがその手紙を拾い、クルリとその封筒をひっくり返すと
"杏寿郎、ナオ"
と見覚えのある文字で書かれていた。
「ナオ、側に寄ってくれ。一緒に読むぞ」
「はい」
私も杏寿郎さんに身を寄せ、杏寿郎さんが丁寧に取り出した封筒の中身を読んだ。
杏寿郎、ナオ。結婚おめでとう。ようやくこの日が来るのを、産屋敷家一同心から待ち望んでいたよ。ナオ、寄付するか、誰かにあげて欲しいと言った君の気持ちを無視し、長年持っていた事を許して欲しい。けれど私は2人が再び巡り合い、結ばれる未来を信じていた。今度こそ、必ず2人が幸せに満ちた日々を共に過ごせる事を心より願っているよ。末長くお幸せに。"
文にはお館様の文字で、そうしたためられていた。