第11章 待ち侘びた日々
その含みのある聞き方と、瑠火様の視線が気になった。
「…はい。紋付袴を着た杏寿郎さんと、白無垢をきて歩きたいと…ずっと思っていました。タキシードより、紋付袴姿の杏寿郎さんが見たいんです」
「そうですか」
瑠火様がとても優しい顔で笑っている。瑠火様はいつもお優しくて、その笑顔もいつだって素敵だ。けれど、今の瑠火様の微笑みは、その普段のものと少し種類が違う気がした。
スッと槇寿郎様が黙って立ち上がり、居間から出て行く。"厠にでも行くのかな?"と思っていたが中々帰ってこない。その間、杏寿郎さんと千寿郎さんはどこの神社が良いか、近くに温泉はないか、と楽しそうに杏寿郎さんのスマートフォンを2人で覗きながら話していた。
程なくして戻ってきた槇寿郎様は、大きな、そして上等そうな箱を二つ抱えていた。
「父上、それはなんですか?」
「僕もその箱を見るのは初めてです。何が入っているんですか?」
槇寿郎様は居間の空いている場所にその箱を置き、
「杏寿郎、お前が開けろ」
と杏寿郎さんを呼びつける。杏寿郎さんは不思議そうな顔をしながらも
「わかりました!」
と立ち上がり、槇寿郎様が置いた箱を開けにそちらへと向かった。私はと言えば一体中身はなんだろう、と思いながらお茶を啜っていた。
「っこれは!」
杏寿郎さんの驚く声が聞こえ、私がそちらに顔を向けると
「ナオ!こちらに来てくれ!」
杏寿郎さんが慌てて私の事を呼ぶ。その杏寿郎さんの様子に、只事ではないと思った私は、急いで立ち上がりそちらへと向かう。
「中身はなんなんですか?」
そう言いながら覗き込んだ箱の中身は
「…っうそ!どうして…どうして?…この白無垢…?」
それじゃあもしやと思い、その隣にあるもう一つの箱を見る。顔をあげると、杏寿郎さんと目線が合い、杏寿郎さんは肯定を示すかの様にコクリと一回頷く。
震える手でその箱をカタリと開けると、
「…杏寿郎さんの…袴…?」
この袴と白無垢は本当にあの時、杏寿郎さんと私があつらえたものなの?でも、私はこれを…手放して…こんな形で戻ってくるなんて……どうして?
私のその疑問に答えてくれたのは、
「それはつい昨日、産屋敷家から送られてきたものだ」
槇寿郎様だ。