第11章 待ち侘びた日々
「私の方こそごめんなさい。勝手に腹を立てて…言い方も、意地悪過ぎました」
杏寿郎さんの背中を掌で優しく撫でると、杏寿郎さんもいつもよりは弱々しい力で私を抱き返す。
「…許してくれるのか?」
顔上げると、不安げに揺れる瞳とようやくパチリと目が合う。
「…初めから許すも何もなかったんです。杏寿郎さんにとって、カナエさんは毎日一緒に仕事をする同僚で、そこにいるのが当たり前な存在なんですもん。それなのに私の気持ちを察しろって方が無理な話なんです。…私の方こそ、ごめんなさい」
そう言って未だに眉を下げている杏寿郎さんの唇に、背伸びをして自ら口付けた。杏寿郎さんが俯いていたおかげで、いつもなら背伸びしても届かないその唇に何とか届く。うっすら目を開け様子を伺うと、杏寿郎さんは驚いた様に目を見開いた後、目を瞑り私の腰へと腕を回した。私も再び目を瞑り、その見た目よりもフワフワだけど、ほんの少しかさついた唇を堪能した。
「おい、お前ら。喧嘩するのか、ベタベタするかどちらかにしろ。いやまて、こんな所でベタベタするな。鬱陶しい」
「「…すみません」」
厠に行こうと居間から出てきた槇寿郎様に呆れられ、ようやく杏寿郎さんと私は2人の世界から戻される。
「…怒られなくて良かったですね」
「うむ!」
居間に向かい、千寿郎さんに"心配かけてごめんね"と謝り、瑠火様にただいまの挨拶を済ませた後、私は杏寿郎さんと共に部屋へと戻った。
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「お風呂上がりましたよ」
「身体はあったまっただろうか?」
「はい。とっても良いお湯でした」
私がお風呂に入っている間、杏寿郎さんはまたもや持ち帰ったテストの採点をしていた様で、座卓にはプリントの束が置いてある。髪をわしゃわしゃとタオルで拭きながら杏寿郎さんに近づき、杏寿郎さんが座る座布団の隣にしゃがみ杏寿郎さんにくっついた。
「む?まだ髪が濡れているな。ちゃんと乾かさねば風邪をひいてしまうぞ」
杏寿郎さんはまるで、自分の生徒でも注意しているかの様な感じでそう言う。
「だって…早く杏寿郎さんの側に来たかったんです」
そう言ってピトッと杏寿郎さんにくっつくと、先程まで髪を乾かせと言っていたのにまんざらでもなさそうな顔をしている。
「よし!では俺が乾かしてやろう!」
