第11章 待ち侘びた日々
その愛らしいとも言える微笑みに、腹を立てている自分の方がおかしいのではないかとそんな気すらしてくる。でも、それでも、先程カナエさんを困らせてしまうほど、しのぶさんに謝らせてしまうほど、蜜璃ちゃんがオロオロと慌てふためくほど流した私の涙を、なかった事には出来ない。
「杏寿郎さん。なんで私にカナエさんの事を教えてくれなかったんですか?私…今日カナエさんとまた会えるなんて思っていなくて…泣いて、泣き過ぎて、みんなを困らせてしまいました」
半分八つ当たりの様にも思えたが、どうしても何も言えずにはいられなかった。前世で、カナエさんともう会えないと取り乱し、泣く私を慰めてくれたのは他でもない杏寿郎さんではなかったか。それなのにどうして。
「…っ!!」
杏寿郎さんは、私が何に対して腹を立てているかようやく思い至ったようで、その元々大きな目を見開き息を飲む音がここまで聞こえてきた。
お互いに何も言葉を発さない。けれども、杏寿郎さんの表情がどんどん無くなっていくのが、遠目からも見てとれる。
「すまなかった!ナオ!…どうか許して欲しい!」
杏寿郎さんの煉獄家中に響いているだろう大声に、咄嗟に耳を塞いだが、手遅れだったようで少し頭がクラクラする。
杏寿郎さんの大声に、千寿郎さんが心配そうな顔で居間から顔を出したのが杏寿郎さん越しに見えた。
「俺はナオと一緒になれた喜びのあまり、君にとってとても重要なことを伝え忘れてしまっていた。…配慮が足らず申し訳ない」
私がしていた想像に反して、杏寿郎さんは心から申し訳なさそうに言った。いつも私を真っ直ぐと見据えるその目も、下に向いておりお互いの目が合わない。
「…かつて花柱だった胡蝶先生が亡くなったと聞いた時、悲しみにくれる君を見て、俺が守ってやりたいと、そう思ったのに。俺はそんな大切な事も忘れ、1人浮かれてしまっていた。…不甲斐ない」
あの時…そんな風に思っていてくれたんだ。
そこまで自分のことを思ってくれていたとはつゆ知らず、勝手な想像で腹を立てていた自分が情けない。
私はピタリと動かなくなってしまった杏寿郎さんに駆け寄り、いつもより心なしか小さく見えるその身体をギュッと抱きしめる。
そんな私の様子を見て安心したのか、千寿郎さんの顔は居間の中へとゆっくり引っ込んでいった。
