第11章 待ち侘びた日々
駐車場へと戻り、私は運転席に座るとエンジンをかける前にメッセージアプリを起動させる。
"今から帰ります"
いくら腹を立てているとは言え、連絡を送らないのは良くない。そう思い、私が杏寿郎さんに帰宅のメッセージを送ると、
"うむ!気を付けて帰って来るように!"
と間髪入れずに返信がきた。杏寿郎さんからの返信に一瞬喜んでしまいそうになったが
だめだめ。今日は私は怒ってるんだから。
と自分に言い聞かせ、エンジンをかけて煉獄家へと車を走らせた。
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「ただいま戻りました」
玄関を開け、控えめに帰宅の挨拶をすると、ドタドタと奥から足音が近づいて来る。
「ナオっ!おかえり!待っていたぞ!」
その音の主は予想していた通り杏寿郎さんで、嬉しい!と言わんばかりの顔で、腕を広げながらこちらに走り寄ってくる。
…やだ。大型犬みたいで可愛い。
そう思った私は靴を脱ぎ、玄関に上がり、杏寿郎さんと同じように腕を広げながら、その身へと飛び込もうとした。
けれども私は思い出す。
だめだめ。私、杏寿郎さんに怒ってるんだから。
ピタリと足を止め、広げていた腕もダラリと下に降ろす。そんな私の様子に気づいた杏寿郎さんも、腕は広げたままだが、ゆっくりとその場で止まり、私の方を不思議そうに見て
「…どうした?来てはくれないのか?」
と、悲しげに眉を下げ言う。
…やだやだ。今度は捨てられた仔犬…うぅん、やっぱり大型犬みたい。可愛い。
その身体に腕を回し、スリスリと顔を寄せたいと思う自分と、やはりひとこと言わないと気が済まない、と思う自分が心の中で戦っていた。
「き…杏寿郎さん。私、怒ってるんです」
結果、ひとこと言いたいと思う自分が勝利した。
「む?ナオが俺にか?」
「…はい」
杏寿郎さんは顎に手を当て目を瞑り、一生懸命考えているようだった。
「すまない。君に何かしてしまったかと考えてはみたが…何も思いつきそうにない」
けれども身に覚えはないようで、私はそんな杏寿郎さんを軽く睨みながら
「…カナエさんに会いました」
と言った。そんな言い方では、私の言わんとする事が杏寿郎さんには伝わらず、
「そうか!胡蝶先生も一緒だったのか!それは良かった」
と私にニコリと微笑みかける。