第11章 待ち侘びた日々
上弦ノ弐との戦いの末、しのぶさんが命を落としたと聞いた時、辛くて哀しくて苦しくて、思わず脚を止めてしまいそうになった。
"きちんと治療に来てもらわなくては困りますよ"
あの優しい声を、手の温もりを、もう二度と感じられないと思っていた。
「あらあら、そんなに強く抱きしめられると苦しくて息が止まってしまいますよ」
そんなふうに言いながら、私の背中に優しく腕をまわしてくれるしのぶさんに、私はもう涙を堪えることが出来なかった。
扉の前で抱き合う私たちに、デザートを持って来てくれた店員さんがギョッとした顔で驚き、すみませんと平謝りしながらしのぶさんを解放した私は席へと戻った。
「あ、ついでに注文してもよろしいでしょうか?」
頻繁にこのお店を利用するのか、しのぶさんはメーニューを確認することなく
「キノコの生姜風味パスタと、激辛ペペロンチーノをひとつずつお願いします」
と定員さんに注文すると、蜜璃ちゃんの隣の席へと腰掛けた。
しのぶさん2つも食べるのかな?どちらかと言えば、少食のイメージだけど…。
私の頭の中に疑問符が湧いて出て来た。
「やっと煉獄さんと結婚されたそうで」
けれども、しのぶさんのその言葉で、私の中の疑問符は一旦なりを潜めてしまう。
「はい!つい先日、籍を入れて来ました」
「おめでとうございます。この言葉をあなたに言うのに何年待たされた事やら」
「…100年位経っちゃうんですかね?」
「100年越しの結婚‥素敵だわ!結婚式とかは考えてるの?」
「その辺はまだ全然話してなくて。もう少し落ち着いてから話せればと思ってるんですけど…。蜜璃ちゃんは確か美大に通ってるんだよね?」
「そうなの。デッサンとか制作とか、とっても楽しくて毎日時間が足りないくらいなの」
「夢中になれる物があるって良いね。しのぶさんは今どうしてるんですか?」
「私ですか?私は今大学で薬学を学んでいます。ナオさんはもう働らいてらっしゃるんですよね?」
「はい!駅の近くに語学教室があるんですけど、そこで受付と事務のお仕事をさせてもらってます」
「あのガラスドアの建物のですか?」
「その通りです!」
年頃の女性が3人も集まれば自然と会話は弾んでしまうわけで、話題が尽きる様子が全く見られない。