第11章 待ち侘びた日々
「やっぱりそうだったんですね」
もし杏寿郎さんに前世の記憶がなくて、その中の誰かともしかしたらと考えるとゾッとする。
「けれどもナオさん、以前もお伝えした通り、杏寿郎は幼き頃よりあなたのことを探していました。それはもう探しに行くと聞かないのを引き止めるのが大変な程に」
瑠火様はその時のことを思い出しているのか、遠い目をしている。確かに、こうと決めたら中々それを曲げない杏寿郎さんを説得するのはさぞ骨が折れたことだろう。
「"心に決めた人が既にいる"、とそう言い続け、その割に長年誰も現れる様子もなかったので嘘だと思う方もいたでしょう。それが、ここへ来て突然結婚したとあれば、注目されてしまうのも致し方ない事です」
成る程事情は理解できた。
「このご時世で、あなたに直接何かをしてきたり、言ってきたりする者は流石にいないかと思います。けれどももし万が一そのような事があれば私達に言うのですよ?」
「あぁ。その時は俺たちが、なにより杏寿郎が黙っちゃいない」
私を見つめそう言う槇寿郎様と瑠火様に
「ありがとうございます。でも、心配には及びません。そんなしょうもない悪意、前世で戦ってきた鬼に比べればへでもありませんので」
私はニコリと微笑んだ。そんな私に槇寿郎様は"お前も相変わらずだな"と呆れた様に言い、瑠火様は"頼もしい限りですね"と口角を上げ笑っていた。
程なくして部活を終えた千寿郎さんが帰ってきた。流石は千寿郎さんと言うべきか、帰宅するや否や真っ先に"課題を先に済ませます"と自室に行くと言う。構ってもらえずちょっぴり寂しい気もしたが、そんな事を思っているとはお首にも出せないので"頑張ってね"と見送るしかなかった。
その後、夕食の準備をする瑠火様の手伝いを買って出たものの"働きに出ているのですから家にいる時くらいは休みなさい"と言われてしまえばしつこく言うことも出来ず大人しく引き下がった。けれどもやはり何もしないのは性に合わず、せめて洗い物だけでもとお願いし、交渉の末、私はその権利を手に入れたのだった。
時刻が間もなく7時を迎える頃、配膳の手伝いをしていると
「ただいま戻りました!」
と玄関から杏寿郎さんの声が。その声を聞いた途端ソワソワし出す私に瑠火様が笑いながら"行ってきて良いですよ"と言ってくれたのでその言葉に甘えさせてもらった。
