第11章 待ち侘びた日々
「それは良い案ですね。3時のおやつの時間は少し過ぎてしまいましたが、お茶でも入れて一息いれましょうか」
「やった!それでは私、手を洗ってきますね!」
私はケーキの箱を瑠火様に託し、パタパタと洗面所へと向かった。
手を洗い部屋に鞄を置いて居間に戻ると、いつの間に戻ってきたのやら、今日は外部講習があると言っていた槇寿郎様も瑠火様と共に台所にいた。
「槇寿郎様、おかえりなさい」
「あぁ。お前こんなにたくさんケーキを買ってどうかしたのか?」
呆れ顔でそう聞く槇寿郎様に、一瞬何と言おうか迷う。
「…今の時期にサツマイモフェアなんて珍しいじゃないですか!杏寿郎さんの喜ぶ顔が浮かんで思わず買い過ぎてしまいました。槇寿郎様も食べれそうな甘さ控えめなものもあるので一緒に食べましょう」
半分本当で、半分嘘だ。
「あまり杏寿郎を甘やかすんじゃない」
なんて言いながら、何を食べようか物色している槇寿郎様がちょっと可愛いと思ったのは私だけの秘密だ。
「うん!甘くて美味しい!」
口に広がる甘いミルクレープの味と、瑠火様の入れてくれたコーヒーの苦味がなんとも絶妙な組み合わせで思わず笑みが溢れた。
「それで、会社には無事報告出来たのか?」
槇寿郎様にそう聞かれ、私は今日の室長とのやり取りを思い出す。
「はい。みんなにおめでとうと言ってもらえました。でもですね、上司との会話でちょっと気になると言いますか、お二人に聞きたいと思った事がありまして」
「私達に聞きたい事?一体なんでしょうか?」
「…苗字が何になったのかを聞かれて"煉獄"になったと言っただけで、私の上司は、結婚相手が杏寿郎さんだとすぐ分かりました。それに免許センターでも銀行でも、何人かの女性は、私の"煉獄ナオ"と言う名前に反応し、私の様子を見ている様でした。…杏寿郎さんはそんなに有名人なんですか?」
私のその問いに、槇寿郎様は難しい顔をし、瑠火様は微かに眉間に皺を寄せていた。
「有名かどうか聞かれれば何とも言い難いが、あいつが学生だった頃は家に突然来られたり、社会人になってからは見合いをと言ってくる人間が一定数いた事は確かだ」
「…そうなんですね」
きっと今日私を見ていた人達は、そのどちらかに該当していたのだろう。