第10章 灯る灯火
気合を入れつつも、丁寧に慎重に。宣言通り杏寿郎さんは今度は穴を開けることも、書き損じることもなく婚姻届を書き終える。そしてその届けを、スッとスライドし私の方へと寄越した。
「次はナオの番だ!俺は念のため残りの2枚も書き進めておく。君はそちらを記入していてくれ!」
「はい!わかりました」
ジッと、私の父、槇寿郎様、そして杏寿郎さんが記入してくれた婚姻届を見つめる。
いよいよ、これを書いて提出すれば…私は今度こそ杏寿郎さんの奥さんになれるんだ。
そう思うと、嬉しくてジワリと目の奥が熱くなって行く気がした。そして、それと同じ位"書き損じたらどうしよう"という不安が込み上げてくる。
「…ナオさん、大丈夫ですか?」
私を気遣うように、瑠火様が声を掛けてくれる。
「…だ、大丈夫です…!」
順調に書き進めて行き、あと少し‥
「あっ!…やってしまいましたぁ‥っ!」
のところで書き損じた。
「どうしよう…あと2枚しかないのに…っ!」
「大丈夫だナオ!"あと2枚も"ある!」
瑠火様が私のところに、新しく入れ直した暖かいお茶をコトリと置く。
「さぁ。これを飲んで一回落ち着きましょう」
「ありがとうごさまいます…」
一口口に含むと、ホッと心が落ち着いた気がした。
「それでは…今度こそ!」
無事に婚姻届を記入し終え、手元には2枚の完成済みの婚姻届が。
「1枚余ってしまったな。だが捨ててしまうのもなんだか勿体無い」
「それであれば、私が貰っても良いですか?提出してしまったものは戻ってこないので、記念に手元に取っておきたいんです」
「成る程!それは名案だ!ならば今度額縁を買ってくる。俺たちの部屋に飾ろう!」
いや、そこまでしなくても。
と、思ったが、あまりにも杏寿郎さんが嬉しそうに言ったのでそれを口にするのはやめておいた。
時刻はもう5時を回っている。事前に調べておいた、この辺りで日曜日の5時以降も婚姻届を受付てくれる窓口へと杏寿郎さんと私は車を走らせた。
「書類に不備はないようですね。それでは、婚姻届を受理させて頂きます。この度はおめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
無事婚姻届を提出し、私はようやく悲願であった"煉獄ナオ"になる事ができた。