第10章 灯る灯火
杏寿郎さんの部屋に荷物を置き、片付けは後回しにして槇寿郎様と瑠火様の待つ居間へと向かった。
居間に着くと、槇寿郎様が既にテーブルに腰掛けお茶を啜っている所だった。
「お待たせしてすみません!」
「いいや。俺も今しがた来たところだ」
槇寿郎様の前に杏寿郎さんと私が腰掛けると、瑠火様がすかさずお盆に湯呑みを3つ乗せて現れ、杏寿郎さん、私、そして槇寿郎様の隣にコトリと置いた。
「ありがとうございます」
私がそうお礼を告げると、瑠火様はニコリと微笑み、先程湯呑みを置いた槇寿郎様の隣に腰掛ける。
「それで杏寿郎、柏木のご両親にはきちんとご挨拶出来たのか?」
「はい!結婚もお認め頂き、これをご記入して頂きました!」
そう言って杏寿郎さんは初めに書き損じた1枚を抜かした4枚の婚姻届を取り出し、槇寿郎様へと手渡した。それを見た槇寿郎様は眉間に皺を寄せ
「…杏寿郎、お前まさか柏木のお父上に、この4枚全てを書かせたのか?」
と声を低くし聞く。
「いいえ!書き損じを含め、5枚書いて頂きました!」
杏寿郎さんのその返事に、槇寿郎様はその手で目を覆い"はぁ…"と深いため息をついている。
「父上!父上にもここの保証人の欄を記入して頂きたい故、お願いできないでしょうか?」
「…あぁ。構わない。瑠火、すまないが俺の万年筆をもってきてはくれないか」
「もう用意してありますよ」
すかさず万年筆を差し出す瑠火様に、なんて出来た奥様なのだろうかと私は軽い感動を覚える。
槇寿郎様はそれを受け取ると、姿勢を正し、サラサラと保証人欄を埋めていく。その姿も、保証人欄を埋めていく字も、とても美しく"杏寿郎さんと同じで相変わらずその見た目によらないな"と、失礼なことを考えていたのは私だけの秘密だ。
流石は槇寿郎様、1枚も書き損じることなく4枚の保証人欄を埋めた。
「では次は俺の番だな!」
そう言って杏寿郎さんは気合十分に、婚姻届へと向き合う。
「っよもや!」
一筆目だ。杏寿郎さんは気合のあまり力を込め過ぎたのか、ビリっと音を立て、ペンを当てた部分に穴が空いてしまう。
「…杏寿郎さん、力の入りすぎです。もう少し肩の力を抜いて書いて大丈夫ですよ」
「すまない!いよいよと思うとつい力が篭ってしまってな!だがまだ3枚ある!同じ過ちは犯さない!」