第10章 灯る灯火
これが側にあることが当然すぎて''隠す"と言う発想がなかった。どうしようか考えた末、奪い取った虎ぬいぐるみを仕事用の鞄に突っ込む。
「…あ、あの‥お茶!温かいお茶でも‥いれますね!」
と誤魔化すようにキッチンに向かう私を
「待ちなさい」
「…っ!」
杏寿郎さんが背後からまるで"捕まえた"と言わんばかりに抱きしめる。
「成る程先ほどのあれが、お父上の言っていた俺に似ていると言うぬいぐるみだな。もう一度、見せてはくれないだろうか?」
それは、恥ずかしい。杏寿郎さんそっくりの虎のぬいぐるみを長年愛で、ベッドで一緒に眠っていただなんて。知られたく無かった。出来れば無かったことにしたい。よし、無かったことにしよう。
「何のことですかね?それよりも玄米茶ととうもろこし茶、どちらが良いですか?おすすめとしてはとうもろこしが…っ!」
そう誤魔化し早口で言う私の言葉を遮るように、杏寿郎さんが私を抱きしめる力が強くなる。
「…見せなさい」
私の耳元に口を寄せ、低く、甘い声で囁く杏寿郎さんの声に私の身体はピシリと固まる。
「いいな?」
私は、その声に弱い。前世でも催眠術にでも掛かってしまったのかと思う程、その声には逆らえなかった。それでも、せめてもの抵抗で仕事用の鞄に特に重要なものが入っていないことを良いことに"…自分で出して下さい"と蚊の鳴くような声で言った。
「では、見せてもらおう!」
と嬉しそうに言った杏寿郎さんが離れて行く。
後ろで鞄をガサガサとあさる気配がする。私は依然として固まったまま動けない。杏寿郎さんが戻ってきたかと思うと、私の正面で止まった。チラリそちらを見ると杏寿郎さんが虎のぬいぐるみに頬を寄せ、私にニコリと私に向かって笑いかけている。
「…っあざといです!杏寿郎さん!それはあざと過ぎです!」
私はもうその眼前に広がる堪らない光景にときめきが止まらない。
杏寿郎さんはぬいぐるみをテーブルの上に置き、私を抱き上げた。そのままベッドに連れていかれ座らされる。ギシリと音を立てて杏寿郎さんも隣に座り、私の肩を抱く。
「俺の代わりか。ずいぶん可愛らしいことをしてくれるな」
「…赤ちゃんの頃から大切にしていたらしいですよ。私の杏寿郎さんへの愛、凄くないですか?」
私は恥ずかしさを隠す為、敢えて戯けるように言った。
