第10章 灯る灯火
瑠火様は打ち込み稽古をしている槇寿郎様と杏寿郎さんに手拭いを持ってきたらしく、それを私に託すと"朝食の準備がある"と言って戻って行った。手伝うと申し出たが丁重にお断りされてしまったのでしつこく言うのもあまり良くない、そして2人の稽古をまだ見ていたいと思った私はその言葉に甘えさせてもらった。
今世の私は竹刀すら握った事もない。それでも杏寿郎さんと槇寿郎様、私の元師範である2人の稽古を見ていると
"私もやりたい"
と自然と思ってしまう。気づくと瞬きする事すら忘れ、夢中になって2人を見ていた。
「お疲れ様でした」
稽古を終えた2人に手拭いを渡す。
「ありがたい!」
手拭いで汗を拭う杏寿郎さんがなんとも素敵で、私はほぅっと見惚れてしまう。
時刻はまだ6時を回ったばかりで、普段の休みの日であれば私はまだ寝ている時間だ。
「いつもこんなに早い時間に稽古をしているんですか?」
そう槇寿郎様に聞くと
「いや。普段は平日しかしない。だが昨晩、俺も杏寿郎も飲みすぎたものでな」
成る程そう言うことか。確かに昨日、槇寿郎様と杏寿郎さんは私の比にならないほどお酒を飲んでいた。なのに全く酔った様子もなく、今も二日酔いを感じさせる気配すらない。凄いものだと思わず感心してしまう。
先ほどの打ち込み稽古をする2人の姿が頭に浮かび、
「…私もやってみたい…」
と知らぬ間に口にしていた。
「好きにしろ」「ダメだっ!」
杏寿郎さんの思わぬ反対意見に、槇寿郎様と私はパッと杏寿郎さんの顔を見る。当の杏寿郎さんはと言えばじっと私の手を見ているようだ。
「ナオがどうしてもと言うのであれば仕方ない。だが、出来ることなら、俺はもう君のその白く柔らかい手を、豆だらけの手にはしたくない」
杏寿郎さんはそう言って私の手を取り、掌の感触を確かめるかのようにフニフニと触る。
「わかりました。杏寿郎さんがそう望むのであれば私はしません。あまりにも懐かしくてそう言いましたが、実の所今世の私はそこまで運動という運動はしてきませんでして…おそらく出来たとしても素振りくらいが精一杯で、運動不足解消程度にしかなりません」
そう苦笑いをする私に
「そうか!ならば代わりに一緒にランニング行こう!」
その誘いに、前世での地獄の走り込みが頭をよぎる。
「……遠慮しておきます」
