第10章 灯る灯火
「…杏寿郎さんが、素敵過ぎるのがいけないんです」
そう甘えて言う私に
「…仕方のない子だな」
と、杏寿郎さんが眉を下げ言った。
杏寿郎さんは私の横にゴロリと横になると肘をつき、横になっている私を見つめる。そしてまるで子どもを寝かしつける時のように、私の腹部をポンポンとリズミカルに叩く。
「…私、子どもじゃないんですけど」
「いや!今の君はまるで幼子のようだ!」
と笑う杏寿郎さんに思わず頬に熱が集まるのを感じた。
けれども結局、ポンポンされるリズムと杏寿郎さんの手が心地良くて、私の瞼は段々と重くなってくる。
「君が眠るまでここによう。ほら、目を瞑って、もう寝なさい」
「…はい。おやすみなさい杏寿郎さん。…大好きです」
「俺も君が大好きだ。良い夢を」
私の意識は、心地よい眠りの世界へとゆっくり落ちていった。
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カッ!カッ!カッ!
この音は…知ってる…。
どこからか耳馴染みのある音が聞こえ目が覚める。隣で眠っていたはずの杏寿郎さんの姿はそこになく、杏寿郎さんが昨夜着ていた羽織だけが綺麗に畳まれそこに置いてあった。その隣を見ると、私の為に用意してくれたと思われる暖かそうな羽織がおいてある。
私はその羽織に袖を通し、鞄から手鏡を取り出しサッと髪の毛を整えると、その音がすると思われる場所へと向かった。
道場の扉を開けると、
「…やっぱり!」
木刀で打ち合いをしている杏寿郎さんと槇寿郎様の姿が。
真剣に打ち合っている2人の姿はとても見事なもので、前世では決して見る事が叶わなかった2人の稽古姿に私は目を奪われる。
夢中になって見ていると
「おはようございます」
といつの間にか瑠火様が後ろに立っていた。
「っおはようございます。あの!昨日は…お酒に呑まれ、失礼な態度をとってしまいすみませんでした…」
さっぱりと記憶がなくなっていてくれたらどんなに幸せだったろう。けれども残念ながら、私は昨晩の出来事をしっかりと記憶している。千寿郎さんだけならともかく、槇寿郎様、そして瑠火様にまで絡んでしまったとは情けない限りだ。
「謝る必要などありません。大変可愛らしかったですよ」
と、瑠火様が楽しそうに目を細めながら言ってくれたので、私は余計に恥ずかしくなった。