第10章 灯る灯火
迫り来る杏寿郎さんから逃げるように、今度は槇寿郎様の隣へと移動する。酔っ払いながらも、流石に槇寿郎様の腕に絡みつくのは憚られ、私はただその隣にちょこんとくっつき腰掛けた。
「槇寿郎様ぁ」
「…俺を巻き込むな。早く杏寿郎の方へ行け」
そうぶっきらぼうに言う槇寿郎様だが、本気で私を嫌がっている様子は全くない。
「槇寿郎様、私、槇寿郎様がご家族に囲まれとっても幸せそうで…煉獄家の皆さんが幸せそうで‥私は心から嬉しいです!」
熱弁している間に、なんだかどんどん感情が高まって来て目の奥からジワリと涙が溢れて来そうになる。
「…お前は本当に相変わらずだな。人のことばかりでなく、もっと自分の事も考えろ。お前ももう、この家の、煉獄家の人間になるんだろう」
「…っそんな風に言われたら‥私もう‥寂しくて…一人暮らしの家に‥帰れなくなっちゃうじゃないですかぁ‥!」
そうグズグズ言い出した私に槇寿郎様が"お前の好きなだけいれば良い"と、眉を下げ優しく言うものだから私はもう我慢ができず
「…っ槇寿郎様!」
とその腕に絡みつこうとした。けれどもその時、私の腕が杏寿郎さんにの腕よって絡みとられ、ギュッと抱きすくめられる。
「いくら相手が父上とて、ナオの身体にみだりに触れる事は許容できない!」
「お前の目は節穴か。俺は何もしていない」
槇寿郎様は心底面倒臭そうに言った。当の私と言えば
「…杏寿郎さん…」
逃げ回っていたくせに、愛する杏寿郎さんの腕に抱かれその幸せを噛み締めていた。
「私…杏寿郎さんが大好きです!そんな大好きな杏寿郎さんが…こうして心から笑顔でいられると言うことが…とてもとても…嬉しいですっ!」
「…っ!」
そう言う私に、杏寿郎さんは一瞬息を詰まらせ、
「…俺も、愛する家族、そして愛する君に囲まれ、今この場にいられることがとても嬉しい」
と噛み締めるように言った。
「ほら、もう部屋に行こう。明日、本当に行けなくなってしまっては君も困るだろう?」
「…はい」
杏寿郎さんが優しく私の手を引き、居間の出口へと向かって行く。クルリと振り返り
「それでは!ナオを部屋に連れて行きます!」
「千寿郎さん…おやすみなさい」
そう手振る私に千寿郎さんも
「おやすみなさい」
と手を振り返してくれた。