第10章 灯る灯火
けれどもその声はしっかりとこちらまで届いており、状況についていけない私はただただ槇寿郎様から目をそらせずにいた。槇寿郎様はボソリと「厠に行ってくる」と言うと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
ぼんやりと槇寿郎様が歩いて行った方向を見ていると
「ナオさんが戦いの末亡くなったと僕に教えてくれたのは父でした」
と、千寿郎さんが静かに言った。あの日、槇寿郎様は元音柱様と一緒に輝利哉様をお守りする為そのお屋敷にいた。それは即ち、情報の最前線に限りなく近い場所にいた事を示し、恐らく私が死んだと言う知らせをいち早く得たのだろう。
「兄上に続き、姉上のように思っていたナオさんまで亡くなったと聞いた僕は、ようやく鬼殺隊の悲願が達成された言うのに‥それを喜ぶことが出来ませんでした」
「…っごめんね‥」
「謝らないでください!謝ってほしくてこの話をしたわけではありません!」
珍しく声を荒げる千寿郎さんに、私は驚き目を丸くした。
「僕が伝えたかったのは‥僕の悲しみに寄り添ってくれたのは他でもない父上で、最後まで戦い抜いたナオさんの事を褒めていたのも父で、僕も父上も、兄上と同じようにナオさんとまた会える日が来るのを心待ちにしていたと言うことです!その証拠に‥」
そう言って千寿郎さんはパタパタと隣の部屋へと行き、年季を感じるが綺麗で上等な箱を手に戻って来た。その箱を千寿郎さんが私の方へと差し出し「開けてみてください」と言う。
どうして良いかわからず、その箱を中々受け取らないでいる私に千寿郎さんと同じように杏寿郎さんがとても穏やかな声で「開けてみるといい」と言った。
恐る恐る受け取り、丁寧に箱を開けると
「…っこれ…!」
そこにあったのは、杏寿郎さんの日輪刀から私が作った短刀と、だいぶ古びてはいるが大切に扱われて来たことが伺い見える2本の組紐だった。
「時が来たら、持ち主に返せるようにと、代々煉獄家で大切にされて来たそうです」
驚き固まる私に
「父上が素直でない事、君ならよくわかっているだろう?」
と杏寿郎さんが微笑み言う。
「…っ!」
私は胸が熱くなり、鼻の奥がツンとしてくる。
槇寿郎様が厠から戻って来たのか襖の向こうから足音が聞こえて来る。サッと襖が開かれ、振り向くと再び槇寿郎様の姿が。