第10章 灯る灯火
「…っ」
杏寿郎さんはその言葉に一瞬息を詰まらせる。けれどもすぐ、私の両頬をその手で優しく包み込み
「約束する。もう二度と、君を置いて行ったりしない」
と真っ直ぐと私の目を見つめ言った。
「…ありがとうございます。ずっと…ずっと、一緒ですからね」
杏寿郎さんは泣きながらくしゃりと笑う私の涙をスッと親指で拭い、触れるだけの優し口付けを私のそれに落とした。
涙で崩れてしまった化粧を直した後、杏寿郎さんと私は、槇寿郎様、瑠火様、千寿郎さんが待っている居間へと向かう。とんだ初対面になってしまった瑠火様、そして今世では初対面となる槇寿郎様との対面に、私の手は緊張で小刻みに震えていた。
そんな私の様子に気が付いた杏寿郎さんが、私の頭にポンと手を置き
「大丈夫だ!」
と微笑みかけてくれたので、不思議と震えは収まった。
いよいよ襖の前に到着し、
「待たせてしまい申し訳ありません!」
と杏寿郎さんが襖を開く。
ザッと開いた襖の向こうには、槇寿郎様、瑠火様、そして千寿郎さんが並んで座っていた。
バチリと槇寿郎さんと私の目が合う。すると槇寿郎様はカッとその目を見開き、立ち上がると私目がけてズンズンと向かってくる。その様子に思わず一歩下がってしまった私の背中を、杏寿郎さんの手が優しく触れた。
「…戻ってくるのが遅すぎるんだっ!この馬鹿娘っ!!!」
私の前に来るなり怒鳴り声を上げた槇寿郎様に私の肩がビクリと上がる。
え?‥槇寿郎様すごく怒ってる?私がお化粧を直すのに時間がかかってしまったから‥?
この状況が理解できず、焦りと不安から縋るように杏寿郎さんの顔を見上げた。けれども、槇寿郎様が怒鳴っているのにも関わらず、何故か杏寿郎さんはニコニコと槇寿郎様を見ている。私の頭の中はもう疑問符だらけだ。
その時
「あなた」
と、瑠火様の凛とした声が部屋に響く。
「そんな言い方では何も伝わりませんよ?素直に心配していた、よく戻ってきたと言われたらどうですか?」
その瑠火様の言葉に、私は思わずポカンとする。
「ナオ、口が空いてしまっているぞ。みっともないから閉じなさい」
と、"今それ言う必要ある?"と突っ込みたくなるような杏寿郎さんの言葉も耳をすり抜ける。
「…っ瑠火!余計な事を言うんじゃない!」
槇寿郎様が小声で瑠火様に言った。