第1章 終わりと始まり
何時間そうしていたかよく分からないが気づくと外は綺麗な夕焼けに包まれていた。すると何かに気がついた母が嬉しそうに私の背中をポンと優しく叩いた。
「ねぇねぇお外を見てごらん。夕焼けがあんなに綺麗よ」
「わぉ!本当だ!」
「少しお外に出てみようか」
「うん!」
ゆっくりと立ち上がった母と手を繋ぎ戸を開け、2人並んで外に出るとあたり一面はまるで燃えるような夕焼け空でいっぱいだった。
「わぁー!素敵!こんな夕焼け初めて見た!」
「素敵ね…今まで生きてきた中で1番‥。ナオ、ひとつだけお母さんのお願い聞いてくれないかな?」
母は、はしゃぎ飛び跳ねる私を優しく見つめながら言った。私は飛び跳ねるのを止め、母の顔をじっと見つめた。
「お父さんの事なんだけど‥あの人、とーっても寂しがりやなの」
「‥知ってる。だってお父さん、お母さんの姿がちょっと見当たらないだけで何処だ何処だってすぐ探しにい行こうとするんだもん」
母がご近所さんに遊びに行ってくると言ってなかなか帰って来ず、そわそわしたりしょんぼりしたりを繰り返していたいつかの父の姿が思い出された。
「だからナオ、お父さんが私を探しににフラフラ行ってしまわないようによく見ててあげててね」
そう困ったように微笑む母はとても美しく、父のことを心から愛しているんだなと感じた。
「‥うん。約束する」
お母さんがいない未来なんて想像したくない。でも絶対に避けて通らない道だってわかってるから心の準備をしなくちゃならない。
「私もいつか、お母さんに負けないくらい誰かを好きになれる日が来ると良いな」
母の腰にぎゅっとしがみつきながらまだ見ぬ未来の恋人を想像した。
「あなたならきっと大丈夫よ」
今日の夕日みたいに暖かな人だったら良いな、と甘いような切ないような感情が胸に溢れてきた。
おーい、と遠くから私たちを呼ぶ声が聞こえそちらに目を向けると仕事を終えて帰ってきた父の姿が見えた。
「あ!お父さんだ!おかえりなさーい!」
大きく手を振る私に応えるように遠くで父も手を振っていた。
「さて、寒くなってきたしそろそろ部屋に入りましょうか。今日の夕飯はいつもよりちょっと豪華なのよ」
母はそう言うと嬉しそうに家の中に戻って行った。
母がこの世を去ったのはそれからすぐの事だった。