第10章 灯る灯火
"こっちに来て欲しい"と杏寿郎さんは私の手を引きながら門を通り、玄関ではなく中庭の方へと向かって行く。変わらないその中庭の様子に
「懐かしい」
と自然と言葉が出てきた。
「うむ。ここに座ってくれ」
杏寿郎さんの言葉に従い、いつもいた縁側に座ると杏寿郎さんも私の隣へと腰を下ろす。
「覚えていますか?初めて杏寿郎さんに稽古をつけてもらった日、あまりにも稽古が厳しくて、私ったらあの辺で寝転んでいましたよね」
その場所を指差しながらクスクスと笑う私に
「そうだな…」
と、杏寿郎さんはそう言ったきり黙り込んでしまう。どうしたのだろう思い、隣に座る杏寿郎さんの顔を窺がい見るが、その目はまっすぐ正面を見据えており普段とは少し様子が異なるように見える。
「杏寿郎さん?」
「…責務のためとはいえ婚姻も結べず、君を一人残し死んでしまったことは悔やんでも悔やみきれない」
そう言う杏寿郎さんの手はギュッと力を込め拳を握っているのか、心なしか白く変色している。私はその手に両手で包み込むように触れ
「そんな杏寿郎さんの事を、心から愛しておりました…いいえ、愛しておりますので…気に病む必要なんて少しもありません」
と微笑みかける。そんな私に杏寿郎さんも眉を下げ、優しく微笑んだ。
「ナオは本当に、強く優しい女性だ」
杏寿郎さんはそう言うとゆっくりと立ち上がり、私の目の前に移動する。そして跪くようにしゃがむと、私の両手をその大きく暖かな両手で強く握り私を見上げる。
「あの時守れなかった約束を今度こそ果たさせて欲しい。君を心から愛している。残りの人生を俺にくれ。…結婚しよう」
杏寿郎さんはそう言うと、私の目をその燃えるような瞳でジッと見つめる。
答えなんて考えるまでもなく決まっている。
「私も、杏寿郎さんのことを心から…世界で一番愛しています。私を、杏寿郎さんの奥さんにして下さい」
「そうか!そうか!ありがとう。必ず君を幸せにすると今ここで誓う!」
杏寿郎さんはそう言って立ち上がると、私の身体をギュッと抱きしめた。
「…一つだけ、お願いがあります」
「なんだろうか?俺に叶えられることであれば何なりと!」
「…私、杏寿郎さんがいない世界にはもう耐えられそうにありません。だから1日、うぅん1時間でも良いんです。絶対に私より長生きしてください」
