第10章 灯る灯火
ピシリと音を立て私の身体が石のように固まる。
「母上!買い物ですか?」
「ええ。お客様が来るというのに、お茶を切らしてしまっていたもので。それよりも杏寿郎。嬉しいのはわかりますがナオさんが困っているようですよ。気持ちはわかりますが、もう少し落ち着いてはどうですか」
「うぅむ。あまりにも嬉しくてつい!」
そう会話をしてる間も、杏寿郎さんの手は断固として離れていこうとしない。思わずジッと睨むように杏寿郎さんを見ていると
「どうした?」
と眉を下げ本当に心配そうに聞いてくるものだから、私の毒気はいとも簡単に抜かれてしまった。
「いいえ…なんでもありません。少し恥ずかしかっただけです」
私はそう言って、今度はきちんと”瑠火様にご挨拶をしたいからその手を離してほしい”と杏寿郎さんにお願いをすると、ようやくその手が私から離れていった。
私は瑠火様の前まで行き
「初めまして。柏木ナオと申します」
と頭を下げ挨拶をする。
「ええ、良く存じています。杏寿郎の母、瑠火と申します」
「私は杏寿郎さんの……」
そこで私ははたと大事なことに気が付く。自分のことを瑠火様に説明しようとしたが、今世の私はまだ、杏寿郎さんの恋人でも、ましてや婚約者でもない。自分の存在をなんと説明したら良いかわからない。
私が黙ってしまっていると
「母上!まずはナオと二人で話したいことがあるので、部屋で待ってていただいてもよろしいでしょうか?」
と杏寿郎さんが言った。
「ええ。構いません。それではナオさん、先に部屋に戻らせていただきますのでまた後程」
話とはいったい何だろうかと考えている間に、部屋へと去って行こうとする瑠火様。私は”待ってください”とそれを引き取め
「あの、これ私の家の近所にある和菓子屋さんで売られている芋羊羹です。とても美味しいので、よかったら皆さんで召し上がってください」
と、手土産の芋羊羹を差し出した。
「まぁ。ご丁寧にありがとうございます。お茶うけに出させていただきますね」
そう言ってニコリと微笑み、瑠火様は美しい所作で家の中へと去って行った。
昔から杏寿郎さんから育ちの良さを感じていたが(声が大きすぎるという部分はあるが)、なる程それは瑠火様の教育あってのものかと妙に納得が行った。