第10章 灯る灯火
駅に着き改札を抜けると、既にそこには杏寿郎さんの姿が。壁に少しもたれ掛かり、俯き加減で立っているその姿はとても様になっている。
杏寿郎さんが格好良い。格好良すぎる。
大した距離でもないのに、私は早く杏寿郎さんの元へ行きたくて自然と足が小走りになった。
「杏寿郎さん!」
「ナオ!待っていたぞ!」
あまり人がいない事を良いことに、私が杏寿郎さんにギュッと抱きつくと、杏寿郎さんも嬉しそうに私を抱き返してくれる。
「おはようございます」
「うむ!おはよう」
私は杏寿郎さんから身体を離し、自身のワンピースの裾あたりを掴み軽く持ち上げ
「おかしくないですか?」
と杏寿郎さんに聞いた。すると杏寿郎さんが
「世界で1番素敵だ!」
と恥ずかしげもなく大声で叫ぶものだから、駅構内にいた数少ない人たちがクスクスと笑いながらこちらを見ている、
やだ‥恥ずかしい!
一刻も早くこの場を去りたい私は、杏寿郎さんの腕を引っ張り駅の外へと急ぎ歩いた。
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「あれは‥」
しばらく歩いていると、見覚えのある建物が見えて来た。
「うむ!‥昔の姿とほとんど変わらないだろう?」
そこには昔自分も住まわせていてもらっていた煉獄の家がほぼそのままの姿でそこにあった。
「‥とっても懐かしいです」
そう言った私の腰を抱く杏寿郎さんの腕に少し力が篭る。
「杏寿郎さん。そろそろその腕を離してもらっても良いですか?」
私のその言葉に杏寿郎さんはさも不思議そうに
「何故だ?」
と答える。
「何故って‥もうすぐお家に着きますよね?万が一にこんな姿を槇寿郎様や瑠火様に見られたら‥」
そう。杏寿郎さんは駅からここまでの道すがらずっと、ずーっと私の腰に腕を回していた。恥ずかしいから離してほしいと訴えかけても受け入れてもらえず、仕方ないと思いながらもここまで来た。けれども赤の他人に見られるのと、杏寿郎さんのご家族にこの姿を見られるのとでは訳が違う。
「俺は気にしない!」
そう高らかに言い、全く腕を離そうとしない杏寿郎さんに若干の苛立ちを感じる。
「私が気になるんです!お願いですから離してください!」
「断る!」
あぁ。この不毛なやりとりもなんだか懐かしい。
のんきにそう思っていると
「杏寿郎」
と凛とした声が後ろから聞こえた。