第10章 灯る灯火
目的の階につき、カードキーに記載された番号と合致する部屋の前へと急ぐ。カードキーをかざし、部屋を開けするりと滑り込むように中へと引っ張られ、ドアが音を立て閉まったと同時に
「…ナオっ!!!」
杏寿郎さんがぎゅうっと強く私を抱きしめる。
「杏寿郎さん…っ!!!」
堪らず私もその背中に腕を回した。
会いたくて、会いたくて仕方なかった杏寿郎さんが今ここにいる。
私と杏寿郎さんはしばらくそのまま抱き合っていた。
けれども
「…なぜ連絡をくれなかった」
そう怒ったように言う杏寿郎さんに、私の体がビクリと反応する。
「言っておくが千寿郎は何も悪くない。様子がおかしい千寿郎を問い詰め君のことを聞き出し、竈門少年に頼み君を捜してもらったのは俺の意志だ」
なる程そういうことか。やはり連絡先をメモに書いて渡すのは迂闊だった。
黙ったまま何も言わない私に痺れを切らした杏寿郎さんは、私の腕を掴んだまま器用に靴を脱ぎ、部屋の中へと進んでいく。土足で部屋に入るわけにもいかず私も慌ててパンプスを脱いだ。
そのまま投げるようにベッドに座らされ、あっという間に押し倒され、
「…ん…やめ…っ…!」
杏寿郎さんに口付けられる。
今世での初めてのキスなのに、それは深く濃厚で杏寿郎さんは全く離れていく気配はない。
ちぅ…ちゅ…
と濃厚な口づけの音だけが部屋に響く。
気持ちよくて、息が苦しくて、生理的な涙が自然と溢れてくる。
ようやく杏寿郎さんが離れていった頃には私は息も絶え絶えになっていた。
杏寿郎さんはそんな私に覆いかぶさったまま下を向いており、その表情を窺うことは出来ない。けれどもふと、その身体が小刻みに震えていることに気づく。
「…俺が君を見つけるのが遅くなってしまったからか?ちっとも迎えに現れない俺に…愛想が尽きてしまったのか…?」
聞いたことがない位悲しそうな杏寿郎さんのその声に、私は思わずその頭を掻き抱く。
「…そんなことありません…っ!私もずっと…ずっと杏寿郎さんを捜していました」
「ならばなぜ連絡をよこさない」
そう悲痛に訴える杏寿郎さんの様子に、やはり私が見たあの光景には何か理由があったのだと思い始める。
「…私…初めてこの街に来た時…見たんです。…杏寿郎さんが女性の肩を抱いて…歩く姿を…」