第10章 灯る灯火
そんな私を事務所にいる人達が不思議そうに見ている。
「ほら。出口まで一緒に行ってあげるから、行くよ」
そう言って先輩が私の肩をポンと叩く。その言葉に、私はのろのろとデスクから鞄を出し、出しっぱなしにしていた筆記用具をしまう。私が準備を終えたのを確認した先輩は
「それでは、お先に失礼します」
と言いながら私の腕を引っ張り事務所の出口へと向かう。私も慌てて
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
と言った。
「はい。お疲れさまでした」
先輩が事務所のドアを開け私も恐る恐るガラスドアの方を見ると、やはりまだ杏寿郎さんはそこにいた。思わずグッと足を止めてしまった私に前を歩いていた先輩が振り向く。そして、いつもはおちゃらけている先輩が真剣な表情で
「…何があったかわからないけど、彼昨日も来てたってことはどうしても柏木さんに会いたいんじゃない?今会わなくっても絶対また来るよ。何かあったら聞いてあげるから!ちゃんと会って話してあげな!」
私を思って言ってくれるその言葉がとても嬉しくて、
「…はい。撃沈したら…やけ食い、付き合ってくださいね」
とようやく私は杏寿郎さんと向き合う決心がついた。
「もちろん!ケーキビュッフェで決まりね」
そう笑って言う先輩につられ、私の顔にも少し笑顔が戻った。
ガラスドアを開け、先輩について外へと出る。
「じゃあ、また来週ねぇ」
そう手を振り帰って行く先輩に私も手を振った。すると杏寿郎さんが近づいてくる気配を感じ
「…ナオ」
と、昔と少しも変わらない大好きな声が私の名を呼び、
「…っ!」
その声を聞いただけで、自然と涙が溢れて来る。
「……杏寿郎さん…っ!」
あんなに会うのが怖くてたまらなかったのに、名前を呼ばれただけで私の心は嬉しいと叫んでいた。
杏寿郎さんは泣いて動けずにいる私の腕をガッと掴むと、私を引きずるようにしてどこかへ向かっていく。
少し歩き到着したのはシティーホテルだった。杏寿郎さんは私の手を放すことなく足早に受付へと向かい、カードキーを受け取ると、ちょうど降りてきたエレベーターへと急ぎ乗った。エレベーターの中では沈黙が流れており、杏寿郎さんは早く目的の階へと到着しないかと心なしが苛立っているように見えた。