第10章 灯る灯火
「あの…!すみませんっ!」
何か良い商品がないかと雑貨屋を見て回っていると、後ろから突然話しかけられる。何かの勧誘だろうか、と思いながら振り返るとそこにはどこかで見たことのある顔が。
この子…もしかして…っ!
そこには私が前世で死ぬ間際、短刀を託したあの隠しの女性とそっくりな顔が。
「突然すみません…っ。知っている人にとても似ていたもので…大変失礼なんですが、お名前を教えてはもらえないでしょうか…?」
その聞き方で私は確信が持てた。
この子もきっと、前世の記憶がある。
「…私の名前は柏木ナオ。よかったら私とお友達になってくれない?」
私がそう言うと
「…っ柏木さん!こんなところで会えるなんて…!」
彼女はそう言って大粒の涙を流して泣いていた。
結局私たちは買い物そっちのけで、ベンチに座ってずっと話をしていた。前世での出来事もあり、私と彼女はすぐに打ち解け、まるで今までずっと友達だったかのように親しくなった。彼女に杏寿郎さんの居場所を知らないか聞いたが、残念ながら彼女も私以外に前世の記憶を持つ人間を1人しか知らないと言っていた。けれども、少しでも可能性があればとその1人に何か情報を知らないか聞いてくれると言ってくれ、この日は連絡先を交換して別れることになった。
「また会おうね」
「うん。何かわかったらすぐに連絡するね!」
そうして別れた1週間ほど後。彼女からとても有力な情報が回ってきた。それは、ある街にかつて鬼殺隊に所属していた者たちがなぜか多く集まっているということ。さらに調べてみると、父の仕事の都合で現在は別の地域に住んでいるが、その街は私の出生の地でもあったということ。
きっと杏寿郎さんはその街にいる。
私はそう確信めいたものを感じた。
大学3年の終わり頃、私はその街の付近に校舎を2校構える語学学校へ就職を決めた。一人暮らしをすることに当初反対していた父も、自分たちがかつて住んでいた地域、そしていつか戻ろうと思っていた場所が私の就職先だとわかると一人暮らしをすることを認めてくれたのだった。
就職して2年は慣れない仕事と一人暮らしに手いっぱいで杏寿郎さんを捜すどころではなかった。そして気づくとあっという間に社会人3年目を向かえていた。