第10章 灯る灯火
私の部屋には私が赤ちゃんの頃から大切にしている虎のぬいぐるみがある。私がまだハイハイも出来ない頃、母が私をベビーカーに乗せて買い物をしている際、気がついたら手に持っていたらしい。その虎はなんだか眉毛と目がやけに特徴的で、あまり可愛いとは言えないものだった。商品棚に返そうと母が私の手から取ろうとしたが、頑なに離そうとせずついには大泣きしだしたので止むを得ず購入したらしい。
"こんな可愛くない虎のぬいぐるみすぐ飽きて捨てるだろう"
そう思っていた母だが私はその虎のぬいぐるみを保育園に通うようになっても、小学校に通うようになっても、中学校に通うようになっても、ついには高校に通うようになっても捨てず大切にベットの棚に置いていた。
17歳の夏のある日、私は謎の高熱で3日間ほど寝込んだ。その間ずっと、この世のものとは思えない化け物と炎を纏う刀を持った自分が戦う何とも不思議な夢を見続けていた。その自分の隣には、なぜかいつも同じ人が側にいた。
目が覚めた時、私は気が付いた。
あれは夢の中の出来事なんかじゃない。前世の私記憶だ。
私は腕を伸ばし、自分でも理解できないままずっと大切にしてきた虎のぬいぐるみを手に取った。
「…似てる…」
今ならわかる。その虎のぬいぐるみは、かつて愛しくて愛しくてたまらなかったあの人に雰囲気がとても似ていた。
杏寿郎さん。
今、あなたはどこにいるの?
会いたいよ。
前世の記憶を取り戻したとは言え、今世の私はまだ17歳の高校生。せめて前世の記憶を取り戻す前にやろうと決めていたことはきちんと果たす。それが今世で私を産み育ててくれている父と母のために果たすべき責務だ。もちろん近隣の学校や、可能な範囲で杏寿郎さんを捜した。けれどもどんなに探しても見つけるどころか、なんの手がかりも見つからないままあっという間に私の高校生活は終わりを告げた。
私は自宅から電車で通える大学に進学を決め、その周辺でも杏寿郎さんを捜したがやはり見つけることは出来なかった。
あの時約束したんだ。きっと必ず杏寿郎さんもどこかにいるはず。
そう信じ続けあっという間に2年の時が過ぎた。
私はその日気分転換にと、いつもとは違う駅のショッピングモールへと足を運んだ。そこで私は今後の私の人生を大きく変えた人物との再会を果たしたのだった。