第9章 火が灯るその日まで
「‥っ杏寿郎さん‥どうして‥やっぱり‥私死んだんですか‥?」
死んだのであれば、この痛みから、苦しさから解放してもらいたいものだが、痛みは依然として続いており何なんだと若干の苛つきを覚える。
「いや、君はまだ、死んではいない」
「‥‥え?‥じゃあ‥?」
目の前の杏寿郎さんは一体何なのか。
善逸くんを庇った事で、無惨からの強力な攻撃を正面から喰らってしまった。完全に死んだなと思っていたが、杏寿郎さんは私がまだ死んでいないというし、確かに善逸くんの気配やまだ誰かが戦っている音がする。
「‥既にボロボロの君にこんな事は言いたくない。だが頼む。‥っ立ってくれ。そして竈門少年を‥助けてやってくれ」
そう言った杏寿郎さんは悔しそうに顔を歪めていて、とても苦しそうで私の胸が締め付けられる。
「‥っそんな顔‥しないで下さい‥っ!炭治郎くんの為なら‥杏寿郎さんの頼みなら‥私は、まだ‥戦います」
グッと腕に力を込め立ち上がる。その動作をするだけでも身体から夥しい血液が流れていくのを感じた。どちらにしろもう死ぬ事は決まっている。だったら最後に、みんなの役に立ちたい。
グッと日輪刀を構える。
「‥っうそ‥っ!」
構えた私の日輪刀は刀身の根元から折れていてどう見たって使い物になりそうにない。
‥誰の刀でも良い!使えればそれで!
そう思い周辺を見渡すがそう都合よく落ちているはずもない。探しに行く体力も、時間もない。
「‥杏寿郎さんごめんなさい‥私‥これじゃあもう‥戦えない」
悔しくて、涙がボロボロこぼれ落ちる。
炭治郎くんがあんなにも頑張ってくれているのに‥私は‥っ!
腕の力がだらりと抜け、もうダメだと座り込もうとしたその時、
「大丈夫だ。‥ナオには俺がいるだろう」
確かに両肩に感じる、懐かしい杏寿郎さんの手の温もり。振り返ると、杏寿郎さんが優しい笑みを浮かべ私を覗き込んでいた。杏寿郎さんは左手を私の肩から降ろすと、その手をそのまま私の丁度心臓のところまで持ってきた。そして私がずっと肌身離さず持っていた小刀をグッと掴む。
そこでようやく自分がなぜ無惨の攻撃で即死しなかったのを理解した。
「‥杏寿郎さん‥私を‥守ってくれたんですね‥」
懐から取り出しそれを見ると鞘には抉られたような跡が。あの時この小刀が、私の心臓を守っていてくれたのだ。
