第9章 火が灯るその日まで
もう一つ、私は槇寿郎様と話すべき、いや渡すべきものがあった。
「槇寿郎様‥私、槇寿郎様に渡さなくてはならない物があります」
槇寿郎様は訝しげな様子でこちらを見ている。
「‥杏寿郎さんから、槇寿郎様に渡して欲しいと預かりました」
本当はすぐにでも渡すべきだった。でも槇寿郎様と顔を合わさるのが怖くて、こんなにも遅くなってしまった。
懐から取り出したのは、あの後からずっと持ち歩いていた組紐。槇寿郎様は目を見開きそれを見ていた。
「‥それは‥」
「‥ご存じないかと思われますが、これは私が杏寿郎さんが炎柱に就任した際、お祝いにと贈った組紐です。‥千寿郎さんとお揃いのもので‥これを槇寿郎様に渡すようにと、今際の際に託されました」
両手で大事に持ち槇寿郎様へと差し出す。
けれど、槇寿郎様はそれをじっと見るだけで受け取ろうとはしない。
「‥槇寿郎様?」
「‥お前が‥待っているべきだろう。俺にはそれを受け取る資格はない」
槇寿郎様も、私と同じだ。自分を責め苦しんでいる。でも、そんな事をしても何の意味もないんだ。
「‥いいえ。杏寿郎さんは槇寿郎様に渡して欲しいと言っていたので資格も何もありません。それに元々これを杏寿郎さんにあげたのは私です。私が良いって言ってるんだから良いんですっ!」
そう言って押し付けるように槇寿郎様に渡す。槇寿郎様は戸惑いながらもうけとってはくれたが、まだ迷っているようだった。
「‥わかりました。いらないと申されるのであれば‥捨てるしかありませんね」
私がそう言い腰を浮かせると
「‥っいらないとは言ってないだろう!」
と慌てて隠すように懐へとしまった。
その慌てた様子がまたおかしくて、クスクスと笑っていると槇寿郎様にギロリと睨まれてしまったが残念ながらちっとも怖くない。
「‥元気になったようで良かった。お前はそれくらい生意気でないとこっちの調子が狂うからな」
その言い方は相変わらずぶっきらぼうだが、その奥に優しさが隠れているとわかった今、ただ恥ずかしがっているようにしか見えない。
「‥生意気ついでに槇寿郎様に、お願いがあります」
「なんだ。内容によっては断るぞ」
「‥私に‥稽古をつけてはくれませんか?」
私のその申出に、槇寿郎様は腕を組み考え込んでいる。
「私は‥いつも大事な時に炎の呼吸を使いこなていません」
