第9章 火が灯るその日まで
千寿郎さんは私のことが相当心配だったのか、わざわざ槇寿郎様の部屋の前まで一緒に来てくれた。それがなんだか、私を守ろうとしてくれているようでくすぐったくて嬉しかった。
「じゃあ、話してくるね」
「はい。僕は台所にいるので‥辛かったら来てください」
「‥ありがとう」
千寿郎さんは来た道を戻って行った。
ふぅっと一度大きく息を吸う。‥心の準備は出来た。
「失礼します」
襖に手をかけ開ける。
「‥先程は‥お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
いつも布団で寝転んでいるか、座り込んでお酒を飲んでいるかのどちらかだったのに、槇寿郎様は私に気づくなりこちらを向き直り佇まいを整える。
あぁ、やっぱり杏寿郎さんの言葉が槇寿郎様を変えてくれたんだ。
いなくなっても尚、千寿郎さんや私を守ってくれているようでほっと心が温まった。
「呼び立ててすまない。お前ときちんと話をするべきだと思った」
「‥私も、そう思っておりました。‥先ずは、杏寿郎さんを守れなかったこと‥改めて謝らせてください。力及ばず、杏寿郎さんを生きて連れ帰ることが出来ず申し訳ありませんでした」
畳に額をつけ謝罪する私に槇寿郎様は
「さっきも言っただろう。お前のせいじゃない。悪いとすれば俺か、力がなかった杏寿郎自身だ。お前が気に病む事はない。もう謝るのは辞めろ」
そう言ってくれた。
「‥はい」
「ここへ来てもらったのはお前の気持ちを確認するためだ。お前と杏寿郎はまだ婚姻を結んでいなかったはず。お前はまだ若い。ここを出て、新たに恋人を作ることだって「そんなもの、いりません」‥‥‥そうか」
槇寿郎様は、私の言葉を初めからわかっていたようでそれ以上は何も言ってこなかった。
「‥私は杏寿郎さんと夫婦には‥なれませんでした。でもそれは形式上の話で、私達は確かにほんの少しの間だったけど夫婦だったと思います‥思いたいんです。‥だからどうか‥このままここに、煉獄家に身を置くことを‥お許しください‥っ!ここに、いさせて下さいっ!」
しばしの沈黙が続いた後、槇寿郎様は
「‥お前はもうずっと前からここの人間だ。許すも何もない」
そう言って私に近づき、優しく両肩に手を置く。
「好きなだけここにいれば良い」
じわりと目頭が熱くなり
「ありがとう‥ございます」
ボロボロと涙が溢れた。
