第9章 火が灯るその日まで
あぁ‥殴り飛ばされるな。
と頭の片隅で思った、その時。
ザッと私を庇うように立ちはだかる人陰が2つ。
「ッチ!そこをどけぇ。胡蝶!甘露寺!」
しのぶさんと蜜璃ちゃんだ。
「不死川さん。いい加減にしてください。さっきから黙って聴いていれば‥あんまりではありませんか?」
しのぶさんの聞いたこともないくらい怒った声と
「っそうよ!ナオちゃんが煉獄さんを‥婚約者を失って辛い気持ち、わからないんですか!?2人はもうすぐ結婚するはずだったのに!ずっとずっとその時を楽しみにしてたのに!突然その未来を奪われて、悲しんだらダメなんですか!?」
蜜璃ちゃんの泣き叫ぶような声に、私は顔をあげる。
不死川様は2人の剣幕に一瞬怯んだように一歩後ろに下がったが、それでも引き下がらない。
「‥俺は事実を言っただけだぁ!泣いて悲しんだら煉獄は戻ってくんのか!?来ねぇだろうがぁ!だったらいつまでも泣いてねぇで強くなれよ!それを煉獄も望んでるんじゃねぇのかよ!違ぇか!?」
「いいえ違うわ!煉獄さんはナオちゃんを誰よりも大切に思っていたもの!泣いて苦しんでいるナオちゃんの気持ちを無視して、柱になれなんて絶対に言わない!煉獄さんはそんな人じゃない!」
「甘露寺さんのおっしゃる通りです。何も柱にならなくていいとは思いません。けれどそれが今でない事は明白です。ナオさんにはもう少し時間が必要なんです」
「じゃあそれはいつだ!?そいつの気持ちが済むまで鬼が待ってくれるのか!?待たねぇだろうがぁ!そいつがメソメソ泣いている間に何匹鬼が狩れる!?何人の命が救える!?鬼殺隊にいる者みんなそうやって自分に鞭打ってやってんだ!そいつだけが辛いんじゃねぇだろぉ!」
「立ち直るのに必要な時間はそれぞれ違います。その時、その人が味わった苦しみ悲しみも違います。それを理解しようともしない人にナオさんを責める資格はないはずです」
「そうよ!ナオちゃんはずっと‥あの日から自分の気持ちと戦ってるわ!大丈夫大丈夫って無理矢理笑って、休まず任務に行って!そんなナオちゃんに、そんなことが言えるなんて‥不死川さんは酷いです!」
何も言えない私を置いてけぼりにして言い争う3人を止めたのは、意外にも蛇柱様だった。