第9章 火が灯るその日まで
「‥私‥は‥っ」
頭ではわかっている。杏寿郎さんの元で継子として鍛錬を積んでいた。すなわち杏寿郎さんがいなくなってしまった今、自分がその後を継ぐべきである。いや、継がなくてはいけない。
鬼殺隊の隊士である限り、いつ命を落としてもおかしくないと、ずっとそう思って来たはずだった。でもいざ杏寿郎さんが居なくなってしまった今、自分の想像の甘さ、そして現実の厳しさに、私は完全に打ちのめされていた。
「すまないね。ナオの気持ちはわかっているつもりだよ。やはり今はまだ無理しなくても「失礼ながらお館様」」
お館様の言葉を遮ったのは風柱様の言葉。
「お言葉を遮った事をお許し下さい。しかしながら、先ほどの言葉、聞き捨てなりません。そいつは煉獄の継子。ならば煉獄が死んだ今、柱になる条件を満たしている以上すぐにでも柱になり任務にあたるべき。如何なる理由があろうとそれを拒否する事は許されないはず」
ビシビシと風柱、不死川様から殺気を感じ背筋がヒヤリとする。そして、不死川様の言葉が私の弱りきった心に突き刺さる。
「‥実弥。君の言っていることは正しいよ」
「ならば甘い言葉をかけるのはおやめ下さい。おい‥。テメェもいつまでも黙ってねぇで何とかいったらどうなんだぁ?」
「‥っ」
わかっている。私だってそんなこと言われなくてもわかってる。でも‥私の心はまだそれを受け入れられるほど強くなれていない。炎柱に私がなる事は即ち‥杏寿郎さんの死を受け入れる事と同じ。私はまだ‥炎柱の‥杏寿郎さんの継子でいたい。
「聞いてんのかぁ!?甘えてんじゃねぇよ!テメェ煉獄の"継子"なんなろぉ!?」
悔しさか悲しさかどちらかわからないが、不死川様の厳しい言葉に私の身体は小刻みに震え始める。
「だったらその責任を果たせ!なんの為の継子だぁ!いつまでもメソメソしてんじゃねぇよ!」
だめ。お願いだから‥涙よ出てこないで。鼻の奥がツーンと熱くなり堪えていた涙が一粒こぼれ落ちる。
それが更に不死川様の怒りを買う。
「あぁ!?泣いてんじゃねぇよ!そんな暇があるんなら死ぬほど鍛えて強くなれよ!煉獄の継子として‥恥ずかしくねぇのかぁ!?」
何で‥そこまで言われなきゃならないの?
そんなの‥私自身が1番思ってるのに。
私は何も答えられない。そんな私に痺れを切らした不死川様がこちらにやって来る。