第9章 火が灯るその日まで
「行ってきます」
千寿郎さんにそう告げ、私はいつもの通り任務に向かった。煉獄家を離れしばらく歩いていると
「カァ!任務中止!任務中止!」
「え?」
昨日は北へ行け!と言っていたはずなのに、何故か急に任務の中止を告げてくる相棒に私は首をかしげる。
「急にどうしたの?」
「お館様がおよび!迎えの隠についていけ!」
「‥っ!」
お館様が‥私を呼んでいる。思い当たることは2つ。杏寿郎さんの事かもしくは‥今後の私の事。
「‥行かないと‥だめかな‥?」
情けない蚊の鳴くような声から私の気持ちを察してくれたのか、相棒は優しく肩にとまり頬に擦り寄って来る。
「‥お館様のご命令‥」
いつもの厳しい感じとは全く違い、本当に申し訳なさそうに言う相棒に罪悪感で胸が一杯になった。
「‥ごめん。わかってる‥」
その頭を指でカリカリしてあげると、目を細め気持ちよさそうにしていた。
しばらく待っていると、隠がやって来た。
「柏木様、お待たせして申し訳ありません」
「いいえ。この子とお喋りしていたので‥ちっとも待っていません」
そう言って微笑んだつもりなのに、隠の人はまるで腫れ物でも扱うかのように私に接して来る。気遣ってもらってると言うことは十分わかった。それでもその気遣いが、私をより一層虚しい気持ちにさせる。
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「柏木様。着きました。降ろしますね」
そう言って負ぶさっていた背中から丁寧に降ろされる。
「目隠し、外します」
目隠しを外され、ゆっくりと目を開ける。
「‥っ」
その先にいたのはお館様と柱達。私の予想はやはり当たってしまったようだ。
「やぁナオ。急に呼びつけてしまってすまないね」
私は行きたくないと言う気持ちを胸の奥に沈め、柱たちが並ぶ列の一番端に行き同じようにお館様に跪く。
「君と話がしたくてね」
「いいえ。とんでもございません」
「単刀直入に言わせてもらうね。ナオ、君には杏寿郎の後を継いで炎柱になってもらいたいと思っている」
‥やはりその話だと‥思っていた。杏寿郎さんをずっとそばで見て来たからわかる。柱は皆多忙で、1人抜けてしまっただけでもその代償は大きい。その穴埋めは‥できるだけ早い方が良い。
でも、私にはまだその覚悟がない。