第8章 燃え尽きる
杏寿郎さんが炭治郎くんと話している間、私はただ二人を見ていることしか出来なかった。思い浮かぶのはあの時ああすれば良かった、こうすれば良かったとそんな考えたってどうしようもないことばかり。ただそれでも‥杏寿郎さんと一緒に過ごした時間には少しの後悔もなかった。
信じたくないけど、これが杏寿郎さんとの最後の時間だ。きっとこうしてきちんとお別れができることは幸運なこと。それすらさせて貰えない状況を、今まで何度も見てきた。神様がくれた最後の時間に感謝しなくちゃと、そう自分に言い聞かせる。
「ナオ‥こっちに来てくれないか」
炭治郎くんとの話が済んだのか、杏寿郎さんが私を呼んでいる。炭治郎くんは、「‥貴重な時間を俺のためにありがとうございました」と早口で告げると、伊之助くんを連れて少し離れたところに行った。きっと杏寿郎さんと私に気を遣ってくれたんだろう。
私は杏寿郎さんの前に座り、できる限りその距離をつめる。
「‥杏寿郎さん‥来ましたよ」
「うむ。‥すまないナオ。君と添い遂げると約束したが‥その約束をもう守れそうにない」
溢れ出てきそうになる涙をなんとか堪える。
「いいえ。そんなことありません。私は‥ずっと杏寿郎さんの事を思って生きていくので‥これからもずっとずっと一緒です」
最後くらい、笑顔でさよならを言いたい。
「いや‥幸いまだ婚姻を結んでいない。だから君は俺のことは忘れて「それ以上言ったら、ここで頸を切って私も死にます」‥っ」
杏寿郎さんは目を見開き、そして悲しそうに眉を下げる。
「そんな‥意地の悪いことを‥いわないでくれ」
「意地が悪いのは杏寿郎さんの方です。‥散々私のことを妻と言っておきながら‥都合が悪くなったら無しにするんですか?‥そんなの‥許しません」
段々と声も震えたきて、私が泣くのを堪えているのは誰が見ても明らかだと思う。‥それでもまだ泣けない。
「杏寿郎さん‥」
「‥ん」
「私‥杏寿郎さんと過ごした毎日が人生の中で1番幸せな時間でした。‥それはこれからも絶対に変わりません。杏寿郎さんが私の人生を変えてくれました。沢山の幸せを教えてくれました。沢山の愛をくれました。‥ありがとうございました」
溢れて来る涙を‥もう止められなかった。