第8章 燃え尽きる
目の前で杏寿郎さんと上弦ノ参との激しい戦いが始まる。
こんな所で震えているだけなんて‥私は何のために今まで努力してきたの?杏寿郎さんを助けるためじゃなかったの?守るためじゃなかったの?
私はこの時、初めて杏寿郎さんを失う恐怖を感じていた。
鬼殺隊に身を置いている限り、いつ別れが来たっておかしくないとわかっていたはず。それだけ危険で、死と隣り合わの毎日だとわかっていたはず。でも杏寿郎さんはいつだって強くて、私の太陽のようで‥いつの間にかそんなことすら忘れていたのかもしれない。
それでも、戦わなきゃいけない。
だって杏寿郎さんは何一つ諦めてない。
だから私も‥諦めない。
深く、静かに空気を取り込み息を整える。身体全体に染み渡るのをイメージして。
大丈夫。杏寿郎さんとの鍛錬を思い出して。私なら出来る。
乱れていた呼吸が落ち着きだし、思考も安定している。これなら戦える。
杏寿郎さんと上弦ノ参は相変わらず激しい戦いを繰り広げている。でも明らかに杏寿郎さんに疲れが見え始め、初めの方は避けられていた攻撃も当たり始めている。私は今すぐ飛び出して行きたい気持ちで一杯だった。でも今じゃない。もう少し。自らの脚をギュッとつかみなんとかその気持ちを堪える。
「炎の呼吸伍ノ型炎虎‼︎」
「破壊殺・乱式‼︎」
激しい打ち合いで辺りは砂埃に包まれ、杏寿郎さんと上弦ノ参の姿が見えなくなる。
砂埃が消え始め、見えた杏寿郎さんは完全に肩で息をしていた。
今行かなきゃ!杏寿郎さんを少しでも休ませて、陽光が差すまでなんとか時間を稼ぐんだ!
グッと脚に力を込め上弦ノ参の元へ一気に跳躍する。
「炎の呼吸参ノ型気炎万丈‼︎」
渾身の力で放った技は、簡単に受け止められてしまう。でもそんなのは想定の内。
「っなんだ貴様!俺と杏寿郎の戦いの邪魔をするな!」
「私は柏木ナオ。杏寿郎さんの継子で、その妻よ!」
「‥っナオ!今すぐ退け!」
杏寿郎さんのひどく焦った声が聞こえたがそんな命令は到底聞くつもりもない。
「俺はお前に興味がない!いますぐそこを退け!」
「‥っは!あんたの言うことなんて‥聞くわけないでしょっ!」
さらに畳み掛けるように攻撃を続ける。しかし、当然なんの手応えも感じない。でもそれで良い。ただ時間を稼げればそれで十分。