第8章 燃え尽きる
振り返ってみるが杏寿郎さんが追いかけてくる様子はない。思わず自分の下腹部に手を当ててしまったが、そんな事実は存在しない事を私が1番わかっているため、自分自身に呆れる。
いつかきっと、その時が来るまで。私は私の責務を投げ出したりしない。
何も宿していない下腹部を一度だけ撫で、私は再び走り出そうと脚に力を込める。
その時
「‥っなに!?」
変わった色の炎が私の手首から現れ、あっという間に全身を包み込む。けれどなぜかちっとも熱くなくて、心地よさすら感じるほどだ。その炎が大きくなるにつれ、段々と意識が遠のいていく。
「ナオ!」
先程悲痛な声で私を呼んでいた杏寿郎さんがこちらに向かって来る。
あぁ。そんな顔しないで。例え偽物だとしても、杏寿郎さんにはそんな哀しい顔させたくなかった。
「杏寿郎さん!あなたと一緒には居れないけれど‥あなたの幸せを誰よりも祈ってるから!」
「ナオ!たのむ!行かないでくれ!」
「‥っさようなら!」
精一杯の笑顔を向けて別れを告げる。炎はさらに燃え上がり、私の意識はフワリと浮くように途切れた。
「‥っ!」
意識が戻った時、辺りはウネウネと動く太い触手に囲まれていた。すぐに日輪刀を抜き、未だ眠り続ける乗客を襲おうとするそれを切り落とす。
‥あれは夢だったのか。私の願望を覗き見るような‥なんて嫌な夢‥血鬼術だったんだろう。
手を、脚を止めることなく触手を切り落としていくが、切っても切っても湧いて出てくるためキリがない。
杏寿郎さんは?みんなはどこに?
そう思っていた時、
ドンッ
と大きな揺れが一瞬列車を持ち上げる。思わずバランスを崩しそうになったがなんとか持ち直し、こちらに猛スピードで向かってくる愛しい人の気配に安堵を覚える。
「ナオ!起きたのか!」
「杏寿郎さん!すみません‥目覚めるのが遅くなってしまって」
「反省するのは後だ!君は後方3両の乗客を守れ!俺は竈門妹と、黄色い少年を手伝いながら残りの車両を守る!」
説明はかなり省かれているようだが、杏寿郎さんの言いたいことなら何だって手に取るようにわかる。私たちは、それだけお互いを信頼しながら任務をこなして来た。
「はい!お任せください!」
「うむ!頼んだ!」
そう言ってまたあっという間にいなくなってしまった。