第8章 燃え尽きる
「‥杏寿郎さんが‥作るんですか?」
違うって言って。ちょっと手伝うだけだって言って。
「うむ!任務に就く必要が無くなった今、そしてナオが身重になった今、俺も俺のやれる事を増やさなければな!」
「‥っ!」
杏寿郎さんの言葉が、やはりここが現実でない事を物語っていた。再び何も喋らなくなった私に、杏寿郎さんも、そして千寿郎さんも心配気に私を見ていた。
「ナオ?やはりどこか悪いのか?」
「ナオさん‥やはり一度休まれてはいかがですか?」
「杏寿郎さん‥」
「なんだ?」
「‥もう任務の準備をしなければならない時間のはずです‥隊服は?羽織は?どうしたんですか‥?」
怖いけど、確かめなければならない。
「‥?鬼殺隊はナオにややが出来たからとこの間辞めてきたではないか。お館様や他の柱たちもそうしろと、自分達がいるから安心しろとそう言ってくれたではないか」
違う。絶対違う。杏寿郎さんは‥そんな事絶対言わない。
思わず顔が強張る。
「ナオ、やっぱり今日の君は少しおかしいぞ」
「おかしいのは杏寿郎さんです。私の知っている杏寿郎さんは‥自分の責務を他の人に押し付けて、自分だけ幸せな道を選ぶようなそんな人ではありません。‥馬鹿にしないで」
私のその言葉と共に、先程まで着物姿だったはずの私の格好が、いつもの隊服と羽織へと姿を変える。
「‥ナオ!?何故隊服姿に!?君の腹には赤子がいるんだ!もう任務など行く必要ないんだ!」
「私は‥任務に戻ります」
「ナオさん!お願いです!やめて下さい!」
騒ぎを聞きつけた槇寿郎様も、荷物を置いて戻ってきた。
「お前が無理をする必要はない。赤子を育てる金は充分足りている。安心して産んで良いんだ」
‥これが現実だったら、鬼がいなくなった世界だったら、どんなに幸せだったことか。でも違う。現実はここにはない。私は‥戻らないといけない。
「‥杏寿郎さん。千寿郎さん。槇寿郎様。私、行かないといけません。鬼を滅ぼして、必ずこんな日が来る事を信じています」
グッと脚に力を込める。
さようなら。
そう告げてその場から走り去った。
「ナオっ!!!」
杏寿郎さんの、悲しげに私を呼ぶ声がする。現実じゃないとわかっていても‥そんな声は聞きたくなかった。