第7章 幸せに手が届く
「自慢の妻だ!」
いや、正確にはまだ妻じゃないんだけど。
知り合ったばかりのお弁当屋さんとなぜそんなやりとりをしているのか、私には不思議で仕方ない。ご婦人は杏寿郎さんの言葉にニコニコと微笑んでいる。ふと視線を感じ、そちらに目を向けるとご婦人のお孫さんと思われる女の子が私をじっと見ていた。
「‥こんにちは。あの、私に何か‥?」
女の子はハッ我に帰ったようで
「っすみません!じっと見るなんて失礼ですよね!ごめんなさい!」
慌てて頭を下げる。
「いいえ。そんな謝らないでください。ただ、あまりにもじっと見られていたので‥何かあるのかと気になってしまいまして」
「いえ!あの!さっきも聞いてもいないのにあなたの話をたくさん聞かされたり、もうすぐ祝言をあげると自慢されたりしたものだから‥どんな方か気になってたんです!想像通り素敵な方だったからつい!」
杏寿郎さんは任務に就いていたはずなのにお弁当屋さんといったい何の話をしているんだ。恥ずかしくて頬に熱が集まる。私は気付くと「すみません‥」と謝っていた。女の子はこっそり私に伝えたいことがあるのか、口に手を寄せ私の耳の方へと近づいて来た。それに合わせて私も少し屈む。
「この人、本当に貴方の事が大好きみたいです。私もいつかそんな相手と結婚したいです」
惚気でお腹いっぱいです。と、苦笑いする女の子に私はまたしても「すみません‥」としか言えなかった。
「お幸せにー!」
と手を振る女の子とご婦人に手を振り返し、私と杏寿郎さんは列車が来るホームへと向かった。
列車なんて初めて。すごい迫力。
とその姿に圧倒されていると「ナオ」と、杏寿郎さんに名を呼ばれた。なんだかその声が、いつもと違う気がして私は列車へと向けていた意識を完全に遮断し、杏寿郎さんの方へと向き直る。
「杏寿郎さん?どうかしましたか?」
杏寿郎さんは何かを考えているようにしばらく沈黙した後、
「先程のご婦人なのだが、昔父上に救われた事があるそうだ」
と言った。思いがけないその話に私は「え?」と少し大きめの声を出してしまい、思わず自分の口をその手で塞ぐ。
「‥そんな偶然が‥あるんですね」
「俺自身もとても驚いた。だがそれ以上に‥かつての父上のご活躍を感じられ、俺は嬉しかった」
そう噛み締めるように杏寿郎さんは言った。