第7章 幸せに手が届く
「杏寿郎さんってば‥」
ドタドタと2人の足音が廊下に響き、あっという間に杏寿郎さんの私室へと辿り着いてしまう。
両手が塞がっているはずなのに、なんとも器用に襖を開け、私の荷物を開いている場所に適当に置いていく。
「うむ!こんなもんだな!」
1人満足そうに頷く杏寿郎さんに私ただ困惑するばかり。
「杏寿郎さん‥私たちまだ正式に夫婦になったわけではないんですよ?槇寿郎様に怒られてしまいますし、千寿郎さんの教育にもあまり良くないのではと思うのですが‥」
「‥ナオは、俺と同じ部屋で過ごすのは嫌か?」
杏寿郎さんが心なしか眉を下げ私を見る。
‥もちろん私だって本音を言えば杏寿郎さんと同じ部屋で、同じ時間を過ごせるのは嬉しい。側にいるだけで心が満たされ、和やかな気持ちになれる。
「‥そんなことは絶対にありません。でも‥っ!」
杏寿郎さんに抱き締められ、手に持っていた服やらなんやらがバサリと音を立て落下する。
「‥先ほども言ったが、俺はもう君と過ごす時間を1日、いや1秒たりとも無駄にしたくない。寝ている時でさえ君を側に感じたい」
杏寿郎さんの腕にギュッと力がこもる。愛する人にそんな風に言われ、断れる人がいるならば是非とも会ってみたい。
「‥本当に‥杏寿郎さんはずるいお方ですね」
私の腕も自然と杏寿郎さんを抱き返していた。
私の荷物は、もう一度2人で取りに行けばなくなってしまう程に少なかった。元々杏寿郎さん1人で使うには大きかった部屋は、私の荷物が入ると丁度良い位になり、なんだかこうなることが必然の様に思えてくるから不思議だ。
今日からこの部屋で杏寿郎さんと過ごせるのか。嬉しすぎてなんだか夢見たい。
「さて、俺は君と話すべきことがある」
あ、嘘じゃなくて本当にあったのか。
「なんでしょうか?」
「うむ!先ずはここに座りなさい」
そう言って杏寿郎さんが示したのは、胡座をかいている杏寿郎さん自身の足の間。
「‥そんな‥恥ずかしくて無理です‥」
自分がそこに収まる姿を想像するだけで、自然と顔に熱が集まってしまう。
「早くしなさい。上官命令だ」
胡座の間に座れなんて上官命令なんて聞いたことない。だが杏寿郎さんの有無を言わせない物言いに、渋々ながらも私はそこに腰を下ろした。その途端、肩に顎を乗せられギュッと腕がお腹に回る。
