第2章 青から赤へ
食べ物の良い匂いと、可愛らしい話し声に意識が浮上する。‥此処はどこだろう。まだ重たい瞼をゆっくり開ける。暖かいベッドに綺麗に洗われたカーテン。そうか、ここは蝶屋敷だ。まだ覚醒し切らない頭でぼーっと部屋のカーテンを交換する女の子達を見つめていると、視線を感じたのかこちらを振り向いた1人と視線が合う。
「あ!ナオさん!良かった。目が覚めたんですね!今カナエ様を呼んで参りますので少々お待ちください」
声を出すのはまだ億劫で頷くことで返事をする。3人はパタパタと可愛らしい足音を立てて部屋を出て行った。
自分がどうやってここまで来たのか全くわからない。覚えているのは漸くハナエさんの仇討ちを果たしたことと‥‥そうだ毛先の赤い黄色い派手な頭。あの時は気づかなかったが、よくよく考えてみると直接お目にかかった事は無かったが、あの派手な髪の毛は炎柱である煉獄様の身体的特徴と一致していたのではないか。じゃああの時私を助けてくれたのは炎柱様だったのかと結論に至る。
「‥恐れ多い‥」
思わず独り言が溢れてしまった。助けて頂いたお礼に伺った方が良いのか、いやでもそれすら忙しい柱にとってはご迷惑なのかと考えを巡らせていると静かな足音がこちらに向かってきていることに気付き横たえていた身体を起こす。
「失礼するわね。身体の具合は如何かしら?」
診察道具を持ち私の所に来てくれたのはこの屋敷の主人であられる胡蝶カナエ様だ。
「全身ひどい筋肉痛みたいに痛みますが、お陰様でなんとか命を落とさずに済みました。ありがとうございます」
「いいえ。あなたの治療をする事も私のお仕事の一つだから、お礼なんて良いのよ」
そう言って優しく微笑む胡蝶様は相変わらず女神様のようにお綺麗でほうっと見惚れてしまう。脈、血圧、胸の音を確認し問題ありませんね、とカナエ様は聴診器をポケットに仕舞う。
「あなたがお礼を言うべきなのは私よりも、あなたをここまで運んできてくれた煉獄家のご子息の方じゃないかしらねぇ」
「え?炎柱様ではなく御子息様ですか?」
「ええ。あなたを此処まで連れてきてくれたのは煉獄家御子息の煉獄杏寿郎さんよ」
私の予想は外れたらしい。
「幸そこまで大きな怪我はなかったんだけど、貴方は兎に角出血が多かったの。もう少しここに着くのが遅かったら手遅れだったかもしれないわ」