第7章 幸せに手が届く
このままでは体力を削られてやられるだけだ。今はまだなんとか鬼の攻撃を避けられてる。でもこれ以上体力が奪われれば、いつあの炎を浴びることになるかわからない。
「‥炎は‥杏寿郎さんだけで‥十分っ!そんな汚い炎‥本物の炎とは言わないっ!」
「なんだとぉ!!!」
まさに鬼の形相。
炎の呼吸の技で倒すのであれば、出来るだけ近付いて‥とにかくあいつに負けないくらい熱く激しい攻撃を‥っ!
私は奥の手を使うことにした。正直成功する可能性は低い。それでも、やるしかない。
シィーーーーーー
「‥なんだ?さっきまでと感じが違う。‥お前!何をするつもりだ!」
お願い。成功して。
「水の呼吸玖ノ型、水流飛沫・乱」
「っ貴様!炎の呼吸を使うんじゃないのかっ!」
ゴウッ轟音をたてこちらにいくつもの炎が飛んでくる。ギリギリでそれを躱し、鬼との距離をどんどん詰める。
「‥っ!!!」
一発足にくらった。まさに焼ける様な痛みが走る。それに炎の呼吸が馴染んだ身体で、水の呼吸を無理やり使ったから‥肺が痛む。でもそんな痛みにかまっている場合じゃない。
鬼はもうすぐそこ。これで決める。
「炎の呼吸伍ノ型、炎虎」
大きな炎の虎が、鬼の頸を噛み切る。
汚い断末魔が聞こえる。あぁでも不味い。水の呼吸を無理やり使って、尚且つその後渾身の力で伍の型を使ったから‥肺が痛くて意識が飛んでいきそう‥。
鬼の身体が崩壊しだすのを薄れ行く意識の中で確認する。
杏寿郎さん‥。私、1人でやりました。1人で‥下弦ノ陸を‥倒しました。
その時、
「ナオ!」
私の名を呼ぶ大好きな声。あぁ、杏寿郎さんが来てくれる。
途端に安心し、私の意識はフッと途切れた。
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目が覚めると、見慣れた天井と消毒液の匂い。
「‥ここは‥」
「あ!ナオさん!目が覚めたんですね!今しのぶさんを呼んできます」
‥今の声はスミちゃんだろうか。
「‥っいた‥っ!」
徐々に意識が浮上するとともに、左足に激痛が走る。‥恐らく激しく火傷をしたんだろう。
これは‥跡が残りそうだな。
細かい傷なら今までもたくさん負ってきた。でも今回のは‥広範囲で目立ちそうだな。隊服で隠れる場所という事が唯一の救いだ。