第6章 熱に焼かれる
恐る恐る顔を横にずらし、杏寿郎さんの背中の向こうに見えたのは曖昧な笑みを浮かべこちらを見る千寿郎さん。
「‥っ千寿郎さん‥いつから‥そこに‥」
答えはわかっている。わかりきっている。それでも、もしかしたらと言う希望を込めて聞かずにはいられなかった。
「すみません。最初からいました‥」
「うむ!君が来る前から千寿郎はここにいた!」
私は‥なんてことをしてしまったのか。顔から、身体からブワーっと汗が出て来る。私が焦っている様子が千寿郎さんに伝わったのか
「あの‥2人が仲睦まじい事はとても喜ばしい事なので‥僕のことは気にしないでください」
そう優しくこちらに微笑み掛けてくれる。それがまた居た堪れない。
どうする私。
どうすれば良い。
私はおもむろに杏寿郎さんの腰に回していた腕を解き、後退りをしながら2人と距離をとった。
そんな私を杏寿郎さんが心なしかニヤニヤしながら見ている。なんだあの顔は。そこで私はハタと気づく。煉獄家の門を潜ってからは確かに気配を殺した。でもその前は‥違う。全集中で、全力で駆けてきた。その気配に、杏寿郎さんが気付かないわけがない。
「‥杏寿郎さんっ!わざと気付いてないフリをしましたねっ!」
「わはは!バレてしまったか!」
「っなんでそんなことするんですか!」
「君が突然気配を絶ったからな!何かあるとは思ったが、よもやあんな可愛い悪戯をして貰えるとは!」
そんな事を言っている場合ではない。
「‥杏寿郎さんの、ばかーっ!!!!」
私はその場を逃げ出した。
「よもや!バカといわれるとは!」
わはは!と笑っている声が聞こえた気もするが、もうそれどころではない私は自分の部屋へ転がり込む。襖をピタッと閉め任務後で汚いとはわかっていたが布団を頭からかぶる。その後、千寿郎さんが夕食の準備に誘いにきてくれるまで布団の中で丸まっていた。