第8章 泣く君 × 笑う貴女
暗かった家に、帰った事はなかった。
いつも明るくて、お帰りが聞こえてきて。
温かく出迎えてくれる家しか知らなかった
「ただいま…。」
『鳴海、どうしたよ』
『いつもは明るい阿呆面見せるくせに』
「ちょっとね。
兄さん達は休み?」
『ああ。偶然な』
『そう言えば鳴海。』
「ん?」
冷蔵庫をガバッと開けて、
お茶を取り出しコップに注いでいると、
兄さんが顔をひょっと出す。
『外に突っ立ってる女、
確かお前の彼女じゃないのか?』
あれ、と窓を指す。
そこには沙月の姿。
あれからずっと突っ立ってる。
「元、だよ。」
『別れたのか!』
『じゃあ、貰おっかなあ〜』
「やめときなよ。男たらしだから」
『うぇぇ、』
『遊びだよ遊び!』
もう終わりなんだ。
ホテルから出て来た時、
不思議と悲しいなんて思わなかった。
ただ、本当にかわいそうだと思った。
あの時からもう、気持ちはなかった。
だけど。
俺は、やっぱりダメな男なんだ。
伸ばした手を、掴んでしまったんだ。
あの子の気持ちが分かってしまったから。