第8章 泣く君 × 笑う貴女
パサッ…
肩に掛けられたジャケット。
振り向くと、イラついた顔の鳴海さん
こめかみ辺りをポリポリかいて、
「帰ってくんないかな」
期待してしまった。
また、
期待してしまった。
なんの脈絡もなかったんだけど、
まだ大丈夫だって思う自分が微かにいる。
だから切り替えが上手くいかない。
「ねえ、聞いてる?」
はあ、と深いため息。
「…だっ」
「なに?」
「やだっ!!」
彼が私を好きだって確証なんて、
どこにもない。ひとつも。
でも、私は確かに彼が好きだ
汚してしまった恋だけれど、
自分勝手に振り回した恋だけれど
それでもやっぱり好きだ。
「……ごめんなっ「もういいって」
言いかけた言葉が、消え去る。
「もういいよ。
俺、そんなに優しくないよ
お人好しなだけで、優しくなんかない
無理って、そう言ったろ。
さよなら、っつって別れただろうが!!!」
彼が怒鳴った。
いつも笑顔だった彼が初めて怒鳴った。
しかもそれがいま?
なんで、私は気づけなかったの。
「もう二度と来んな
兄さん達にも連絡取らないで。
迷惑を掛けるから。
それと、さっさと帰って」
それだけ、
彼は言い残して、
返事も待たないで中へと入った。
初恋なんて相応しくなかったよ。
それなのに私は、
未練タラタラで。
また会いたいなんて思ってしまう。
そっとジャケットを抱きしめて、
泣きながらしゃがみ込んだ。