【MARVEL】This is my selfishness
第1章 1st
冷蔵庫を抱えたまますたこらと階段を上がるバッキーさんの後を、慌てて追いかける。ダンボールを1箱持って。
階段の途中で止まることも無く、バッキーさんはわたしの部屋の前に冷蔵庫を置いた。
ドスン、とその重さに相応しい音を立てて。
『あ、ありがとうございます…バッキーさん、すごく力持ちですね…』
口端を片方だけ上げてポンポン、と置いた冷蔵庫を叩いた。
「これが軽いんだ。バッキーでいい。堅苦しいのもナシだ」
『あ、…うん、バッキー…』
満足そうに微笑んだ彼は「中まで入れようか?」と申し出てくれた。
慌てて玄関の鍵を開け、先に入って置いて欲しい場所を指さす。
『ここに』
また軽々と冷蔵庫を抱えて、狭い通路の壁に当たらないよう気をつけながら指定した場所に丁寧に置いてくれた。
「良ければ他にも手伝うが?」
まだ会って数分の人にいろいろ頼むのも心苦しいけど、彼の力が必要なのは既に身をもって知った。聞けば、家電製品のセッティングもしてくれるらしい。わたしでも出来ないことはないけれど、して貰えるならありがたい。
『お願いします、じゃなくて、お願い!』
「ああ」と頷いて部屋を出ていった彼の後をわたしも追いかけた。
ダンボールくらいならわたしも持てる。……1箱ずつだけど。
『よい、しょっと…ふう、』
バッキーのお陰でそう時間もかからず部屋の中は荷物でいっぱいになった。
「これで全部だな」
『ええ、本当にありがとう。すっごく助かっちゃった!』
ダンボール運んだだけでわたしは汗ばんだけど。
バッキーは汗ひとつかいた様子もなく、初めと変わらず微笑んでくれた。
屈強そうな体で少し怖い人かと思ったけど、全然そんなこと無かった。
『何かお礼がしたいんだけど…う〜ん…ティーカップ類もどの箱だか…』
ダンボールにちゃんと何を入れたか書いとけばよかった。つくづく詰めが甘い。
「いや、いらない。強いて言うなら今後とも隣同士仲良くしてくれ。他に住人もいないしな」
『え、そうなの?』
「ああ。不動産屋で聞かなかったのか?」
『……特には…。値段だけで決めたようなもんだったから…』
「家族向けでもないし、新築でもないし、管理室があっても中に管理人いないしな」