【MARVEL】This is my selfishness
第1章 1st
『ってことは階段使いますよね…ちょっと待ってくださいね。すぐにどけるんで!』
そう言って通行の妨げになっているものをどけようとするが、先程の冷蔵庫といい、そう簡単にどけれるものではなかった。
『フッ、ンン、、』
ただどけようとしているだけなのに、わたしが押し潰されてるような声が漏れる。恥ずかしい。
「なあ、君」
『へっ?!』
踏ん張りすぎて頭に血が上り、一瞬空耳かと思ったせいで声が裏返った。
それに気づいてか、男性は少し笑っていた。
「名前は?俺はバッキー。バッキー・バーンズ。バッキーと呼んでくれ」
男性はわたしが動かそうとしていた冷蔵庫に肩と頭をつけ、寄りかかるようにしながら右手を差し出してきた。
そう言えば『どけなきゃ』と焦りすぎて自己紹介もしてなかった。
『ミアです。ミア・ミラー。ミアと呼んでください』
差し出された右手を握るとバッキーさんは目尻にシワを作り、くしゃりと満足そうに笑った。
「それで?君も2階だよな?」
『えっ、そうですけど…なんで分かったんですか?』
「一階には管理室とランドリーしかないからな」
男性は含み笑いをしながら辺りを見渡した。
そう言えばこのアパートの見取り図を見せてもらった時にそんな説明を受けた気がする…恥ずかしい……。恥ずかしさでカアッと顔に熱が集まるのが分かる。
『そ、そうですね…!』
「ちなみに2階も4部屋しかないが…君の部屋は?」
そう言いながら上を見上げる男性に部屋番号を告げると、「じゃあ俺の部屋の隣だな」と笑い、スローモーションに見えるほど自然に、先程までわたしが必死こいて動かそうとしていた冷蔵庫を軽々と抱えた。
抱え───────
『えっ?!?!』
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
いや、えっ?!?!
「運ぶんだろ?」
わたしの声に少し驚いた様子の男性がきょとん、とした。
きょとん、としたいのはわたしです…。
『いや、あの、え?冷…蔵、庫、、、』
「通路が狭いから何個も持って上がるのは無理か」
ギシ、ギシ、と階段を軋ませながら男性はわたしを置いて上がっていく。
あの階段、今猛烈に重さに耐えてない?
どうやら手伝ってくれるみたい…?