【MARVEL】This is my selfishness
第1章 1st
『ねえ…嘘でしょ…?』
呆然と立ち尽くすわたしの前には数種類の家具。
それと10個はいかないダンボール箱。
少しでも安くできたら、と思い引っ越すことにしたわたし。
引越し業者もネットで安く受けてくれるところにお願いした。
それがまずかった。
『安かったのはこういうことか〜〜〜〜』
今わたしが立ち尽くしているのはアパートの1階、そんなに広くないエントランス、2階に上がる階段の前。
こんなとこに荷物を置いていかれるとは思わなかった…
安かったのは荷物を部屋まで運んでもらえないからか…。
もっとちゃんと引越し業者の評価のところを見ておくんだった。
少しの期待を込め、引越し業者に電話して『荷物を部屋まで運んでもらえないんですかね?』と聞いてみたが、『別料金になりますがいいですか?』と言われた。
少しでも安くしたくて選んだのにここで追加料金がかかったら意味が無いと思い、『やっぱり大丈夫です…』と電話を切った。
『はあ〜〜〜〜〜〜〜〜……』
いつまでもこうしてたって時間の無駄だ。
ましてや他の住人の邪魔になる可能性もある。
共有の洗濯機や乾燥機が1階にあるため、いつ他の住人が通るか分からない。
ユニットバスは各部屋についてるらしいけど……
覚悟を決めて1番階段に近い冷蔵庫からちょっとずつ持って上がる事にした。
『フン、グッ…!』
一人暮らしなのに少し大きめの冷蔵庫を買ったのが裏目に出た。
重たい。小さいのにしとけばよかった。こんなに持ち上がらないもの??
じんわり汗をかき始めた頃、「Hi、」と声が聞こえた。
汗でおでこに前髪が張り付いてるのを感じながら、顔を上げ振り返ると屈強そうな短髪の男性がポケットに手を突っ込んでエントランスの扉近くに立っていた。
も、もしかして住人さん?
おでこに張り付いた前髪と汗を手の甲で拭って『こんにちは』と返した。
わたしの挨拶に口角を上げ、男性がゆっくりと近づいてきた。
「この状況的にここに引っ越してきたのか?」
『ええ、そうです。あなたはここに住んでる人?』
「ああ、2階に住んでる」
男性は人の良さそうな笑顔で言った。やっぱり住人さんだった。