【MARVEL】This is my selfishness
第12章 10th
「そうか」と言った彼の顔は優しく笑っていて、目尻にわたしの好きなシワが出ていてキュンとした。
だめだ、もう何でもキュンとしてしまう。
その優しい笑顔になんとも言えなくなって、苦し紛れに再生しているのに見ていなかったドラマを巻き戻した。
しばらくしてベルが鳴った。条件反射のように、また体を揺らしてしまった。
『あ、』と動こうとするとバッキーに制止される。
「俺が行く」
『え、でも』
「住人は男だと思わせておいた方が安全だ」
……なるほど。女性が住んでいる、と分かって強盗に遭うかもしれない可能性を懸念してくれているらしい。最初の頃もそうだけど、バッキーはいつもわたしのセキュリティ面を案じてくれるなあ…。
納得しながらお金を渡そうとするとそれも制止された。それにはさすがに反論しようとしたら「待たせてるから」と拒否して玄関へと向かった。
女性がいると思われない方がいいかと思って、玄関からは見えない所に立って彼が戻ってくるのを待つ。
その間に『あれ?でも配達員が男性とも限らないよね?』と思ったけれど、すぐにバッキーじゃない男性の声がして、より息を潜めた。
扉が閉まる音がして程なくバッキーが戻ってくる。
『お金!』
「フッ、いきなり何だ?」
ピザを置くバッキーに開口一番に言う。
わたし、お金を受け取らなかったことに関しては納得しておりません、の意思表示だ。
『ピザを注文したいって言ったのはわたしなのにわたしがお金払わないっておかしいでしょ』
だから、はい、と再びお金を出すけど、バッキーは受け取ろうとせず、なんならこちらを向こうともしないでマイペースにピザの蓋を開けている。
「ミアは部屋とテレビを貸し出してるだろ?俺は花しか持ってきてない。だからこれでチャラになるだろ」
…そうはいっても部屋なんて貸し出したと言えないし、サブスクに関しては月額のもので花束よりも恐らく安い。
明らかにバッキーの方がお金を出している。チャラなんかじゃない。
しかし自分の納得いかない気持ちを置いて考えると、ここでずっとわたしがゴネるとそれはそれでバッキーの気持ちを蔑ろにしている気もする。