【MARVEL】This is my selfishness
第12章 10th
ようやくアパートのエントランスの扉に着いた頃にはかなり息が上がっていた。
『ッ、ハッ、ァ、フ、』
吐き気を堪えながら走ったせいか、横っ腹が引き攣るように痛い。
冷や汗なのか、走ったことによる汗なのか、全身ドロドロになっている感覚がある。
エントランスのドアの前で呼吸を整える。
ここまで来たら大丈夫、というセーフティスペースのように。
博物館に行くまでの道中でもアレックスはウィンターソルジャーは何たるかというのを興奮しながらも懇切丁寧に教えてくれた。
例えば、ナイフや銃の扱い方がすごいこと。
例えば、ナイフや銃がなくても強いこと。
例えば、
暗殺の成功率が高いこと。
バッキーが強いことは知っている。
サムさんの、軍の任務につくくらいだし、あのパーティーの夜だって守ってもらったし…。
けれどバッキーが、人を…殺したことがあるというのは、知らない。
知らなかった。
まだ信じれていない。
ウィンターソルジャーは恩赦を受けたと言っていた。
ワカンダという国で治療をしてもらって、ヒドラの洗脳を解いたと。
ウィンターソルジャーはバッキー・バーンズに戻ったと。
しかしアレックスは言う。
「洗脳が解けたとて、彼の強さはウィンターソルジャーのまま。ウィンターソルジャーだから強いんだ」
強さよりも、思うところがあるじゃないか、と思う。
だって、彼は─────
呼吸が落ち着いてきて、吐き気も治まってきた。
いつまでもここでこうしてるわけにもいかない、とエントランスの扉を開けて中に入る。
「Hi.おかえり」
今、いちばん会いたくない人に会った気分だった。
『……、』
「…ミア?」
ランドリー室から出てきた彼が、ゆっくり近づいてくる。
それを避けるように自分の部屋へと上がることも出来たはずなのに、わたしの筋肉は硬直したように動かなかった。
「どうした?何があった?」
眉間に少し皺を寄せて、困ったように眉尻を下げて、わたしの顔をのぞき込むようにしながら彼の右手がわたしの目尻を撫でる。