【MARVEL】This is my selfishness
第3章 3rd
いつどこに行く時だって長袖に黒い手袋を着けていた───────サムや事情を知っている者たちの前では無意味だから着けていない時もあったが。
この腕は本当に使い勝手が良い。ワカンダ製なだけあって滅多なことで壊れることも無く、まるで本当に素の自分の腕のようだった。
ただ、どこか後ろめたい気持ちがあるのだろう。
罪の意識が根底にこびりついている。
以前のヒドラに着けられた腕と違ってこの腕で権力のための汚い事に手を染めたことは無い。
しかし洗脳が解けた今でもやはり何かが消化不良なのだ。
多少悪夢は見なくなった。それでもやはり『多少』なのはその消化不良の何かなのだろう。
ヨリに打ち明けたあと、俺は彼の前から姿を消した。
打ち明けられた本人に俺の姿を見せて辛い思いをさせない為だとか、そういうのは言い訳に過ぎない。
結局は自分が最後まで向き合うのが怖くて逃げたのだ。
そんな自分のこの偽物の腕を綺麗だと言われて、一瞬、本当に一瞬。
頭が真っ白になった。
彼女の言葉で自分の中に抱えるものが全て無くなったように感じた。
恐らくだが、彼女は俺があのバッキー・バーンズだということを分かっていない。
自分で自分を過去の人物として扱うのも何だが、そもそもそういう過去の歴史に関心がないのかもしれない。
俺の事情を何一つ知らない、そんな彼女はこの偽物の腕を綺麗だと。
気付けば俺の腕に夢中な彼女の表情をよく観察しようとしていた。
俺との距離に気づいた彼女は顔を赤くして少し距離をとる。
その距離に少しだけ寂しさを感じつつも、己を落ち着かせるために悪戯心が顔を出す。
黒光りする義手を怖がることなく綺麗だと言ってのけた不思議な彼女にペースを奪われないように。
俺の腕を撫でた彼女と同じように、ミアの腕を撫でると可愛い声が漏れるのを聞いた。
予想していなかったその声に体の奥から何かが沸き立つ気配がした。
くすぐったがりなのか、声と共に体に少し力が入っている。
口を一文字に結び、瞳も固く閉ざしたようだ。
その初々しいともとれる反応に体の奥に燻り出した何かがその勢いを強くする。